非常に古い時代のフランスの地方ジュエリー
この指輪を仕入れたフランス人ディーラーさんは、他のディーラーさんのところでは見つからないフランスでも希少なアンティークジュエリーを得意としています。
この指輪もかなり玄人向きの作品でしょう。
まず1800年頃と、18世紀から19世紀に変わるとても古い時代の指輪です。
200年以上前まで遡る指輪は、アンティーク市場の中でも数パーセントに過ぎません。
そしてもう一つ、フランスの地方ジュエリーであるということ。
エピソードにも書きました南仏の地方ジュエリー(ビジュードプロヴァンス)で、その中でもアルルと言う街のアンティークジュエリーになります。
アルルと言う街は古くからパリ中央政権とは異なる独特の文化が発達し、その特徴が非常によく出たコレクター要素の強い指輪になります。
その特徴は特に台座周りの金細工にあります。
ゴールドを婉曲させて描かれた二重の花びらが特徴です。
とても古い時代のアルルのジュエリーの特徴が実によく出た指輪で、まさにミュージアムピースです。
このような珍しいアンティークジュエリーはフランスのアンティークマーケットでも出回るものではなく、極限られた現地のスペシャリストの元に持ち込まれることが多いです。
当店でお付き合いしている方の一人が、一つには地方ジュエリーの第一人者でまたこの1800-1830年頃のジュエリーにとても強い方ですので、幸運にも手にすることができました。
この指輪を見られた方はまず「こんなアンティークリング見たことがない!」とおっしゃるのですが、それは当たり前で日本でもまず他に扱っているところはないでしょう。
アルルの指輪の、アルルのダイヤモンド
ダイヤモンドは一石。
二重になったお花の台座の中心に潔く据えられています。
ダイヤモンドのカッティングはローズカットですが、よく見るローズカットダイヤモンドよりずっと厚みがあります。
古い時代のかなり原始的なローズカットですが、その透明度の高さと輝きの強さには驚かされます。
アルルと言う街は歴史的に実に豊かな土地で古くはダイヤモンドの鉱山がありました。
この指輪の独特の石の底から煌きを放つようなダイヤモンドは、やはりアルルのダイヤモンドです。
それほど大きな石ではないですが、厚みもあり稀有なクオリティー感があり、遠めにも並ならぬ存在感があります。
そしてこれだけのギラギラするような煌きがありながらも、ダイヤモンドはクローズドセッティングになっているのにも驚かされます。
ショルダーの唐草模様の彫金と透かしも見事です。
フランス革命後の混沌たるフランスの中で作られた時代を感じさせる素晴らしいリングです。
18カラットゴールド。
指輪サイズは11号。
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フランスの地方ジュエリー
フランスのアンティークジュエリーの大半は、パリを中心とした貴族社会を中心に展開します。
しかし地方特有の特徴が見られるジュエリーもあります。
地方ジュエリーと中央のジュエリーとの発展とは大きな違いがあります。
それはパリを中心にしたジュエリーは常に、貴族社会から展開していること。
一方で地方のジュエリーは17世紀までは貴族の装飾様式を模しながら、既に18世紀初頭からその地域特有の発展を見せ、その地域の有力な商家がその主役になっているところです。
そうした意味でいわゆる貴族的なソフィストケートとはまた異なった魅力を持ちます。
下記はプロの中で「良書」として長く愛好されてきたフランスの地方ジュエリーに関する本ですが、残念ながら今は廃盤です。
(フランスは歴史的に中央の政治戦略が強く、地方特有の衣装や装飾品は、長年あまり研究の進まなかったという側面を持っています)。
表紙になっているのはMariette Dayreの肖像画(1860年)。
南フランス、アルルのアルラタン博物館に所蔵されています。
この地域特有の衣装と、ソートワール(ロングネックレス)に3連になった短いネックレス。
大きめのイヤリングピアスにブローチ、髪飾りと当時のアルル地域の貴婦人のジュエリーを今に伝えてくれる絵画です。
ビジュードプロバンスの歴史
地方ジュエリーがもっとも豊かにみられるのは南仏(プロバンス、プロヴァンス)です。
南仏には特有の文化や衣装が発達し、経済的に豊かな場所でした。
この地域で作られたジュエリーを「ビジュードプロバンス(bijoux de provence)」と呼びます。
南仏と言っても広いのですが、いわゆる「プロヴァンス地方」の西のエリア。
特にフランスの中央から独立していた時代も長く経済的に豊かであったアルル(
アルルはフランスではおそらく唯一、少量ながらダイヤモンドが採掘された地域でもあります)、あとは港を持ち地中海貿易の中心地として発展したマルセイユ、プロヴァンス公国の首都であったエクサンプロヴァンスです。
この地域では、既に16世紀に「地域特有の衣装」が作られ始め、18世紀の後半には定着します。
ジュエリーは、必ず衣装(コスチューム)と共に発展するため、フランスで地方特有のジュエリーが生まれる可能性を最も多く持ったのがこのプロヴァンス地域でした。
地方ジュエリーが大きく発展するのは、18世紀を通じてです。
下記は画家Antoine Raspal(1738-1781)によるアルルの女性の肖像画。
Granat美術館所蔵。
胸元にマルタの十字架、腕にブレスレットが描かれています。
様々なビジュードプロバンス
以下にビジュードプロヴァンスの典型的なジュエリーをいくつか挙げます。
アルル地域で作られたアルルのダイヤモンドのリビエールネックレス。
こちらも南仏のネックレスでとても古い時代のものです。
こちらは南仏のストマッカー。
ストマッカーと言いますとノルマンディー地方のジュエリーのイメージが強いかもしれませんが、南仏特有のストマッカーも少なからずあります。
南仏のリングは特徴的で、下記のリングは二重に波状に広がる独特の花びらの作りでアルルのリングであることが分かります。
ビジュードプロヴァンスに、十字架(クロス)の比率はとても多いです。
なぜならこの地域では、クロス(あるいはソートワール)こそが「富の象徴」であったからです。
プロヴァンスの十字架にはいくつかのとても特徴があるデザインが見られます。
例えば下記は、当店で販売済みの「Croix Capucines」と呼ばれるタイプのもので、コーン型の頂上に小さなローズカットダイヤモンドをセットします。
また南仏のクロスでは、キリストは描かれません。
下記も南仏の特徴が出たクロスです。
花の形をしたモチーフで描かれたクロスは、19世紀末から見られます。
モチーフの底部に黒いエナメルが入れられたものも南仏のクロスでよく見ることができます。
南仏のソートワール
南仏プロヴァンスでは、ソートワールの「連の多さ」は社会的ステータスを表すと考えられていました。
そしてチェーンに十字架やメダル(メダイヨン)、時には時計を通しました。
時計を通すときはあらかじめ胸の辺りにそれ用の小さなポケットも作られました。
下記は1900年頃の絵葉書で描かれた「アルルの女性たち」。
当時のソートワールの装いが分かる一枚です。
マルセイユでは、子供が生まれるごとにこの連を一つずつ足していきました。
下記は1866年に描かれたマルセイユの女性。
首に何連ものチェーンを重ねています。
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