希少な前期アールデコリング
「アールデコのジュエリーが作られた時代は結構な長さがあり、そのスタイルは前期と後期で大きく異なります。
1920年代のアールデコ前期には、それまでのベルエポック時代の貴族的なジュエリーデザインを受け継ぎついだ、都会的でありながら洗練されたデザインが見られます。
このリングもアールデコの初期の頃の作品です。
細やかで上品な細工と、新しい時代を予兆させるジオメトリックなデザインが同居しています。
リングのフェイスはオーバル(楕円形)です。
中心のダイヤモンドは真円の台座にセットされていて、その外側に更に真円、その外側に楕円形のモチーフが広がっています。
それぞれに間に透かしが入っています。
一番外側の楕円モチーフの内側と外側にはぎっしりとミルグレインが施されています。
メイン石以外に、上下に3石ずつダイヤモンドがセットされています。
ダイヤモンドはすべてローズカットにされています。
透かし彫りの美しい台座
台座の透かしも美しいリングです。
全体はイエローゴールドになっていて、フェイスの表層部分だけがプラチナになっています。
台座は明るさのあるイエローゴールドで、透かし彫りが見事です。
台座が深すぎず、狭い面積の中に細かく透かしが入っています。
またショルダーにも、繊細で美しい模様が施されています。
2つの葉模様のショルダーが、二手に分かれてフェイスへとつながっています。
縁にミルグレインが施された精緻な細工です。
後期アールデコのようなアバンギャルドな大胆なデザインではなく、どこか繊細さが感じられるリングです。
1920年頃のフランス製。
18カラットゴールド(一部プラチナ)。
指輪サイズは15.5号(有料でサイズ直し可)。
動画も撮影しています。
アールデコ ローズカットダイヤモンドリング(1920年代)
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1930年、著名なデザイナーであったポール・イリブ(Paul Iribe)はアールデコのジュエリーについて以下のように述べています。
「キュービズムとマシンデザインのために、花を犠牲にしている」。
アールデコ期にも以前として花や葉っぱなどの自然主義のモチーフのジュエリーも存続しつづけますが、「抽象的なジェオメトリックなデザインの台頭」なしにこの時代の動きは語れません。
下記は1927年、Lacloche Freres(当時美しいアールデコのジュエリーを多く生み出したスペインのメゾン) によるサイプレスの枝を描いたピンです。
同じく葉や枝をモチーフにしたジュエリーでも、19世紀のものとは一線を画したジュエリーであることが一目瞭然です。
アールデコを生み出した社会要因
ではなぜそのようなラディカルな変化がデザインの世界に起きたのでしょう?
パリで「アールデコ」という新しい芸術が発祥した理由は、まずなんと言っても第一次世界大戦によって古い価値観が崩れ、女性の社会進出をはじめとした社会革新が起きたことです。
社交界で豪華なジュエリーを付けるのは前世紀から変わりませんが、当時の富裕な女性たちは、デザインの面で大きく変化したジュエリーを好むようになります。
化粧をしたりタバコもすったモダンな富裕な女性たちのライフスタイルの変化が、ジュエリーのデザインにも変化をもたらします。
彼女たちの求めた洋服やジュエリーは、第一次大戦前までの貴族社会の中で続いてきたものとは全く違うクリエイションによってもたらされています。
ドレスデザイナーたちは第一次世界大戦後のこの時代によりシンプルなラインのドレスを作り始めました。
下記は当時活躍したファッションイラストレーターGeorges Lepapeのデッサンです。
当時の女性のイメージが掴めるでしょうか?
加えて時の経済・金融事情も新しい装飾芸術を後押しした要因のひとつでした。
1914年以前のフランスは安定した金利に支えられた安定経済だったのに対し、20年代は毎日のようにフランの価値が下がっていく激動の時代でした。
超インフレが起こり、毎日のように通貨の価値が落ちて生きます。
1919年時に5.45フランだったアメリカドルは、1926年7月にはなんと50フランに!
このような状況のもと、人々は自分の財産を換金性の高いものへ、つまり絵画・宝石・芸術品に投資していきます。
こうしてアールヌーヴォーが陰りを見せはじめた1900年ころから冷え込んでいた宝飾業界に再びお金が流れ、活気が戻り始めるのです。
アールデコジュエリーに関して更に詳しい情報は、アールデコジュエリー その特徴と魅力をご参考ください。
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