ベルエポック時代ならではの優美なフルールドリス
1900年頃、ベルエポックの時代のフルールドリスの指輪。
フランスアンティークジュエリーをお好きな方なら、誰もが憧れる「フルールドリス(百合の紋章)」をモチーフにしています。
フルールドリスのアンティークジュエリーはとても数が少なく、希少価値のある指輪デザインです。
そしてフルールドリスはフランスの宝飾史の中で、ある程度作られた時期が限定されます。
主に18-19世紀初頭の中で王政だった時代、それから19世紀末のベルエポック時代です。
(このあたりの事情は理由はエピソードにも書きましたのでぜひお読みください)。
ベルエポックは最後の貴族文化ですから、古典的なモチーフが好まれたという背景があります。
ベルエポックの時代のフルールドリスは、瀟洒で美しいフルールドリスが見られます。
この指輪も、正面から見たときにオパールとダイヤモンドをつなげているドロップラインが線のように細いのが印象的です。
ナイフエッジの技巧で側面には十分な厚みがあり堅牢ですが、ぱっと見たときのドキッとするような繊細さがあります。
全体は縦長のラインを生かしつつも、3石のダイヤモンドの間から絞りの効いたショルダーが伸び、横にも視線が流れるようになっています。
このなだらかなショルダーとフルールドリスの左右対称性(シンメトリー)のために、細身の指輪でありながら安定感があり着け易いです。
ゴールド(18ct)の色はベルエポック時代特有の明るめのイエローゴールドで(「ローズゴールド」と呼ばれることがあります)で、オパールの華やかな色合いを際立たせています。
オパールとダイヤモンドが最も美しかった時代
オパールとダイヤモンドでフルールドリスを描いた、アンティークジュエリーの中でも珍しい作品です。
オパールは当時の良質なオーストラリア産オパールで、オバール形にカボションカットにされています。
この時代にイギリスやフランスで使われたオパールはハイクオリティーで、こうしたクオリティーのオーストラリア産オパールはもう現代では手に入らないです。
水色をベースに石の底からは、ピンクの色が湧き出ます。
「光が当たった時のオパールの色の多様さ」は通常写真では映しにくいですが、それでもそれぞれの写真でオパールの表情が異なることに気づいていただけるでしょう。
フルールドリスというの希少なモチーフも魅力ですが、「宝石の美しさ」も目を引く指輪です。
フルールドリスを構成する3石のダイヤモンドはオールドヨーロピアンカット、透明感に優れ燦々と煌きます。
また左右のショルダーには小粒なこちらはローズカットにされたダイヤモンドが左右各2石ずつ(合計4石)セットされています。
この時代は宝飾史上最も美しいダイヤモンドを使うことが出来た時代であり、またオパールもオーストラリアオパールの本格的な輸出が始まったのが
1880年頃でから、両方の宝石の最盛期に作られています。
粒ぞろいの宝石が煌く、フランスらしい優美なアンティークジュエリーです。
指輪サイズは13号(有料でサイズ直し可)。
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百合とフランス
フランスでの百合の歴史は、フランク一族の王が天使からユリを授けられたという5世紀の伝説にまで遡ります。
「クローヴィスがアラマン族との戦いに苦戦していた時、天使が現れて百合を渡すると軍の士気が上がりアラマン族を撤退させることができた」と言われています。
ブルボン家が、白ゆりを尊び王家の権力の印がユリで飾ったのは、この伝説に由来すると言われています。
他にも百合の花は、ルイ9世は十字軍遠征の際に用いられたり、ジャンヌ・ダルクが持っていた旗に刻まれたりと、フランスの重要な歴史の局面に頻繁に登場してきます。
百合はまた聖母マリアを表し、中世以降の芸術には、マリア像の周囲にはユリの花がよく見られます。
下記はユリをモチーフにしたブローチ。
フルールドリス
フランス国王の紋章は白百合「フルール・ド・リス(fleur de lys)であるということをご存知の方も多いでしょう。
フルール・ド・リス(fleur-de-lys/fleur-de-lis )はフランス語で「ユリの花」を意味し、アイリスの一種を様式化したものです。
フルール・ド・リスはフランスの王家の紋章でした。
王政から共和制に移ったとき、共和制はフランス王家の象徴であったフルール・ド・リスを公式には使用しませんでした。
しかしながら現在でも、フルールドリスはフランスの永遠のシンボルで、Lys(百合)はフランスの国花です。
宗教的にも、フルール・ド・リスは聖三位一体の象徴であるとされています。
下記は18世紀のフルールドリスのブローチ。
フランス以外のフルールドリス
ところでフルールドリスというとフランスのイメージが強いと思いますが、それ以外のヨーロッパの国でも愛されてきたモチーフです。
例えば、フィレンツェの紋章にも使われています。
フルール・ド・リスのアンティークジュエリーは、純粋にジュエリーのモチーフとしても非常に美しい様式です。
左右対称のシンメトリーなシルエットは身に着けたときにしっくりと落ち着き、正統で品の良い趣を与えてくれます。
下記は推定ロシア製のペンダントで、石と石の間にフルールドリスが刻まれています。
フルールドリスのジュエリーの持ち主
フランス王家のシンボルと言うことで、「フルールドリスのアンティークジュエリーの持ち主は王族などの特別な人のものだったのではないか?」といったご質問も時々頂きます。
実際、フルールドリスをモチーフにしたジュエリーは非常に少ないです。
古い時代になればなるほど、18世紀には王家とゆかりのある人しかフルールドリスのジュエリーを身に着けることは許されなかったでしょう。
しかしフルールドリスのモチーフ自体は、王政が消滅した後も作られつづけます。
例えば最後の貴族文化を誇ったベルエポックの時代には、古典的なモチーフが好まれたということもあり、美しいフルールドリスのアンティークジュエリーが生み出されています。
先に書いたとおり、王政から共和制に移ったとき、共和制はフランス王家の象徴であったフルール・ド・リスを公式には使用しませんでしたから、共和制に入ってからはフルールドリスは「公的には」革命前のように「フランス王家の存在」を表すことはありませんでした。
下記はベルエポック時代の優美なフルールドリスをモチーフにした指輪。
しかしではボウノット(蝶結び)や他のお花のような他のジュエリーモチーフと同じであったかと言うとやはり異なります。
王政が終わりフルールドリスがかつてのように公にはフランス王家を称するものではなくなっても、フルールドリスを表したジュエリーを身に着けることにより、王党派であることを「密やか」に現した面があるようです。
フルールドリスは指輪のショルダー部分など、一見あまり分からないところに描かれていることもあるのですが、それはやはり密やかな主張のためだったのかもしれません。
そうした意味では、後年になって作られたフルールドリスもやはり、フルールドリスのジュエリーを所有する人は限られていたと考えられます。
フランスの歴史の中では、こうした「モチーフ」が秘められた言葉になり、その人の信条や出自を示すことがあります。
フルールドリスのアンティークジュエリーは、フランスの歴史の中で他のモチーフにはない背景を持ったジュエリーであるといえます。
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