まるで空想上の動物のように愛らしい蛇
馴染みのディーラーさんのところで見つけて、その独特な雰囲気に一目ぼれした作品です。
モチーフは蛇ですが、よく見るアンティークスネークリングとは異なる、様式化されたデザインの蛇です。
「蛇」は古くから生命の循環、聖人のアトリビュートにされてきました。
ヨーロッパ特にイギリスでは、ヴィクトリアン時代には19世紀に蛇(スネーク)をモチーフにしたジュエリーが流行します。
中でも指輪は様々なデザインのスネークリングが製作されましたが、私個人としましては蛇の頭部尻尾が造形的に描かれた作品は、それほど美しいと思わず、これまで仕入れることはありませんでした。
しかしフランスで19世紀後期に作られたと推定されるこちらのリングでは、このリングでは2石のトルコ石で頭部と尾をを表現。
蛇らしいくねくねとした胴体をダイヤモンドで描くという、ちょっと空想上の動物のようなフランスらしい、頭一つ抜き出た洗練されたデザインです。
「英知」「守護神」「永久の愛」の象徴として愛されたスネークリングは一歩間違えると、マニアだけが愛する個性的なジュエリーになってしまいますが、このようなリングでしたらセンスが良くかっこいいですね。
蛇らしくない指輪の「蛇らしさ」
トルコ石は空色の発色の良いとても綺麗な色の石が使われており、深く埋め込まれていますがドキッとするほど大きさがあります。
そしてこれも面白いところですが「頭部」と「尻尾」にあたる二つのトルコ石は、大きさはほぼ同じ楕円形ですが、片方はとてもふっくらとした石(こちらが頭部)、そしてもう片方が同じような大きさですがずいぶん扁平な石を使っています。
これがまったく同じ膨らみを持った石でしたら、蛇を連想させることは難しかったでしょう。
胴体部分にはダイヤモンドが6石セットされています。
いずれもローズカットにされていて、当時のいわゆる普通のローズカットに比べてずいぶん厚みがあります。
ダイヤモンドも面白くて、それぞれの石のカッティングがかなり異なっています。
左右のアンバランスさを故意に出していて、カッティングの角度をそれぞれ微妙に変えています。
蛇らしくない指輪で「蛇らしさ」が出ている理由です。
厚みのある故意に出された程よいゴツゴツ感が、蛇のうろこのように見えます。
洗練されたとてもユニークなアンティークスネークリングです。
19世紀中ー後期のフランス製。
18金ゴールド。
指輪サイズは14号(有料でサイズ直し可)。
小さな写真をクリックすると大きな写真が切り替わります。
トルコ石は古代より愛されて、最も古くから宝飾品に重用されてきた宝石のひとつです。
トルコ石は、古代エジプトではオシリス神とイシス神に捧げられる石でした。
その大空のような水色から、「神聖なる石」とされてきました。
古くから危険や邪悪なエネルギーから持ち主を守ると言われています。
「出世の石」としても有名で、古くから権力者に愛されてきたのも、そうしたトルコ石の力のためだったのかもしれません。
トルコ石には、さまざまな伝説があります。
中でも天然トルコ石には危険が迫ると色が変わり、持ち主に災厄を知らせる力があるといういい伝えは有名です。
色が変わるだけでなく、時には持ち主の身代わりとなって砕け散ることもあったという言い伝えがあります。
邪悪なものや、迫り来る危険から守ってくれるトルコ石は、やがて旅のお守りなどに用いられるようになります。
昔のトルコ石と現在のトルコ石は、別の石と言ってよいほど大きく価値が異なります。
トルコ石は、硬度がダイヤモンドを10(最強)の十段階にて換算して4〜7程。
天然強度が5〜7のトルコ石は全体の生産量の1割から2割ほどしかとれないのです。
もちろん宝石を用いる人がごく一部の人に限られた昔、アンティークジュエリーに使われているトルコ石には、まずこうした超良質のトルコ石が使われています。
しかし現在、流通しているトルコ石は、4以下の物が大半。
硬化剤の入った樹脂を含浸していることがほとんどです。
柔らかすぎる為にそのままの状態では宝石として成り 立たないのです。
現在流通しているトルコ石のほとんどは、液体プラスチックと共に青い塗料を入れて気圧をかけていたり、一度石を粉にして、樹脂、塗料を混ぜて固め直していたりされています。
トルコ石の色艶が違うのは当然で、別の宝石と考えるべきです。
また産地も大きく異なります。
アンティークジュエリーで用いられている昔のトルコ石は主にイラン産です。
トルコ石と呼ばれていますが、トルコで産出されたわけではありません。
イラン産のものがもっとも良質であると言われています。
一度、仕入れの際にアンティークのイラン産トルコ石でとても大粒で球体のトルコ石を数珠のようにつなげたネックレスを見せてもらったことがあるのですが、その美しさには言葉を失いました。
またその高価さにも言葉を失いました(笑)。
そのネックレスに使われていたような直系1センチを超すようなボリュームのアンティーク・イラン産トルコ石は、目が飛び出るほどお値段も高くなるのです。
現在トルコ石はそれほど高価なイメージはないかもしれませんが、良質な昔のイラン産(あるいは中東産)のものはそれだけの高い価値を持つ宝石です。
下記は1950年頃とアンティークと呼ぶほど古い時代のジュエリーではないですが、ルネ・ボワヴァン(Rene Boivin)製作の素晴らしい大粒のトルコ石を用いたネックレスです。
数年前にパリで開催されたクリスティーズのオークションカタログからの抜粋です。
こうした大粒の良質なかつてのトルコ石の値段の高騰はまさに止まることを知りません。
色は青から緑の色を持つ不透明な鉱物で、強い空色のものがもっとも価値があるといわれています。
水色は大地を潤す水を象徴し、心に健全さを取り戻す力があるのだとか。
もっとも美しい色は、ロビンエッグカラー、「こまどりの卵の殻の色をした空青色とされています。
この空青色の主因は、主成分として含まれるCu(銅)ですが、その他Fe(鉄)の含有や多孔質の程度により、緑がかったものから白がかったものまで色調には多少の個体差が見られます。
アンティークジュエリーにおいて、トルコ石は大小さまざまなサイズのものが指輪、ネックレス、ブレスレット、ピアスあらゆるジュエリーに取り入れられてきました。
特に19世紀のパリュール(ジュエリーのセット)などでは圧巻の作品が見られます。
下記は当店で販売済みのネックレス、指輪、ピアスのセットです。
またモチーフとしてはその可憐な水色を生かして勿忘草(forget me not)に見立てられることが多かった宝石です。
下記は当店で販売済みのわすれな草の指輪です。
アンティークエピソード集のページでは、様々なアンティークに関するエピソードをご覧いただけます。
アンティークリング、アンティークネックレス、アンティークピアス、アンティークブレスレット等、希少なヨーロッパのアンティークジュエリーを随時100点以上揃えています。
シェルシュミディで取り扱うアンティークジュエリーは、全てオーナーが直接フランス、イギリスを主としたヨーロッパで買い付けてきたものです。