2色のブルーサファイヤ
1900年頃にフランスで流行した「トワエモワ(あなたと私)」と呼ばれるクロスオーバーリングを応用した指輪デザインです。
2色のブルーサファイヤがメインになった指輪ですが、この2つのサファイヤは何とブルーの色がそれぞれ異なっています。
左のブルーサファイヤは明るい青空のような明るい青色で、こちらがブルーサファイヤの見本のような色のサファイヤ(ローズゴールドでセッティング)。
右のサファイヤはもう少しトーンの落ち着いた色で、こちらは石の底の方からエメラルドグリーンが僅かに挿します。
濃い青色ですが黒っぽくはない、こちらもまた良い色です(ホワイトゴールドでセッティング)。
それぞれの石の台座の色が変えられていることからも、意匠をもって2色のブルーサファイヤが用いられていることが分ります。
同じ宝石でありながらまったく同じではない二つの石が寄り添っている様に、愛し合う恋人たちを連想させる指輪です。
サファイヤとサファイヤの間のナイフエッジ
透明ではっきりとした色のブルーサファイアの深みを引き立てているのは、上下のアーチにセットされたダイヤモンドの数々です。
ダイヤモンドはいずれもローズカットにされています。
この時代、オールドブリリアンカットも出始める頃ですが、脇石を中心にまだローズカットも愛用されました。
ローズカットであることで、クラシカルで伝統的な気品が漂います。
ダイヤモンドは上下のアーチに各7石ずつセットされていますが、これだけアーチが長くダイヤモンドが広い範囲にセットされているケースは珍しいです。
またこの指輪デザインで面白いのは、サファイヤとサファイヤの間の直線的な縦ラインです。
「ナイフエッジ」と呼ばれる技法が取り入れられていて、正面からは細い線のようにしか見えないのですが、横幅に厚みを持たせて強度を出しています。
通常ナイフエッジの上に宝石をセットして、宝石が宙に浮かんだような視覚効果を持たせる技法なのですが、今回は両サイドで2石のブルーサファイヤをセットするのに使われています。
ぱっと見たときはこのナイフエッジの線は真っ直ぐに入っている印象を持つかもしれませんが、斜め15度ぐらいで入っています。
クラシックな美しさの指輪でありながら、この一つのシャープなラインが、来たるモダンエイジも予感させます。
そしてこの2つの宝石(恋人)の間の「川」のようにも見え、何より愛を大事にしながらも「個」を尊重するフランス的な愛の形も感じるのは、深読みしすぎでしょうか。
様々な要素が実に面白い指輪です。
1900年頃のフランス製。
18金ゴールド。
指輪サイズは16.5号(有料でサイズ直し可)。
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ブルーサファイヤとコランダム
アンティークジュエリーの貴石の中で、もっとも高い価値がありもっとも人気があるの宝石の一つがブルーサファイヤ。
9月の誕生石であるサファイアは、ルビーと同じくコランダム系の鉱物の変種です。
赤いコランダム(鉱物名)をルビーと呼び、その他はすべての色名を冠してサファイアと呼んでいます(宝石名)。
色によってピンクサファイア、ブラックサファイア、ブルーサファイアなどと呼びます。
鉱物名がコランダム、宝石名がサファイアになります。
サファイヤと言う人もサファイアと言う人も両方いて、両方正しいです。
アンティークジュエリーで使われているコランダム(サファイア)には、ブルーサファイアとルビー。
そしてピンクサファイア、ブラウンサファイアなど中間色のサファイアもわずかですが存在します。
良いサファイヤとは
良質なブルーサファイヤの特徴は、主に下記になります。
1)透明感があること。
2)色は、深く澄んだ青色やわずかに紫色味を帯びた中明度の青色がもっとも良い。
3)深み
濃い青色ほどよいものとされています。
ブルーサファイヤの加熱処理
現在産出されるブルーサファイヤのほとんどは、日常的に超高温での加熱が行われているので本来の色合いを示すものは少ないです。
ちなみにこの超高温での加熱(1500度ぐらい)によるサファイヤの色の調整が始まったのは1960年頃からであると言われています。
現代ブルーサファイヤに行われている人工的なトリートメントとしては、超高温での熱加工、加熱だけでは変わらないサファイヤに外部からの拡散加熱処理を施すという技術があります。
下記は当店で販売済みの「コーンフラワーブルー(矢車草の花の青色)色」のブルーサファイヤです。
現代のような超高温での加熱が行われていなかった当時のサファイヤは、宝石本来の色を見ることができます。
サファイヤの産地
ブルーサファイヤと言いますと、時々産地についてお客様からお問い合わせを頂きます。
最高級のブルーサファイヤの産地として知られるのは、カシミアです。
ただしカシミールサファイヤは1887年には鉱山が枯渇してしまっていて、アンティークジュエリーでもカシミアさんのブルーサファイヤはまずお目にかかることがありません。
うっとりするような、鮮やかなベルベット調のブルーの色彩は、カシミア地域のサファイヤにしか見られません。
カシミール以外では、セイロンあるいはビルマのものが使われました。
深みのある美しいロイヤルブルーカラーの良質なセイロンサファイアは、サファイアの最高峰である「カシミール産のブルーサファイア」に引けをとらない美しさ。
下記の2点は当店で販売済みのセイロンサファイヤのリングです。
しかしセイロンサファイヤもとても数は少なく、多くのアンティークジュエリーで使われている特に19世紀までのブルーサファイヤの多くがビルマ産です。
そしてビルマ産ルビーも非常に美しいです。
下記は19世紀後期のビルマ産ブルーサファイヤのブローチです。
現代のブルーサファイヤの産地
ちなみに現代ではタイ産のブルーサファイアが多く出回っていますが、アンティークジュエリーにおいてタイ産のサファイヤが使われることはないです。
良質で天然無加工の美しいブルーサファイアを入手したいのなら、アンティークジュエリーの中で、お探しになることをお薦めいたします。
歴史的に有名なブルーサファイヤのジュエリー
フランスアンティークジュエリーにおいてブルーサファイヤと言えばナポレオンの妻、ジョゼフィーヌが有名です。
ナポレオンがドイツ征服に成功したとき、ジョセフィーヌのために手に入れたものに「カール大帝の守護石のサファイア」があります。
(寺院側は敬意を称して見せるだけのつもりだったのですが、ジョゼフィーヌが所望してしまい、やむをえなく寺院側は渡したという話です)。
ジョゼフィーヌはこの宝石の歴史的価値を知らず、単純に宝石好きの夫がさぞ喜ぶだろうと考えてサファイアを所望したということですが、実は「持つ者を必ず皇帝にする」と信じられていた素晴らしい秘宝でした。
カール大帝の父、ピピンがイタリア半島をローマ教皇領として法王に謙譲した時法王からお礼にもらったという歴史的にも超一級の由緒あるものでした。
そんな素晴らしい秘宝をナポレオンは簡単に妻のジョゼフィーヌに渡すのですが、それには理由があったと言われています。
妻の浮気をおさめるためです。
ジョゼフィーヌは大変な浮気性で、サファイアは古来より浮気を封じ込めると信じられていたのです。
そのせいか、ジョゼフィーヌのジュエリーには非常に豪華なブルーサファイヤのジュエリーをいくつも所有していました。
下記は、1806年にHenri Francois Riesenerが描いたジョゼフィーヌの自画像。
胸元にブルーサファイヤとダイヤモンドのネックレスが煌きます。
ブルーサファイヤのエンゲージメントリング
また日本では婚約指輪と言うとダイヤモンドの印象がとても強いですが、ヨーロッパやアメリカではダイヤモンドに次いでブルーサファイヤを婚約指輪にする人も多いです。
イギリス、ウィリアム王子がケイト皇太子妃に贈ったのがやはりブルーサファイヤの指輪でした。
元々はウィリアム王子の亡き母、ダイアナ元皇太子妃のご婚約指輪だったサファイアのご婚約指輪です。
アンティークというほどは古くははありませんが、真新しいブランドの指輪などを贈るのではなく、一家の伝統が刻まれた指輪を受け継いでいくというのはやはりイギリス皇室らしい選択ですね。
ヨーロッパでは、結婚する際に花嫁がブルーの物を身に付けていくと幸せになれるという言い伝えもあるそうです。
アンティークエピソード集のページでは、様々なアンティークに関するエピソードをご覧いただけます。
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シェルシュミディで取り扱うアンティークジュエリーは、全てオーナーが直接フランス、イギリスを主としたヨーロッパで買い付けてきたものです。