アールヌーボーで愛されたモチーフの一つ、銀杏
1890年頃のフランス製。
日本から海を渡りヨーロッパに伝えられた銀杏。
ジャポニズムがありとあらゆる芸術シーンを席捲した19世紀末、度々ジュエリーのモチーフにもされました。
フランスの長いジュエリー史において、銀杏がジュエリーのモチーフになっているのはこの10年前後だけ。
それだけに当然、数は非常に少なく、世界中のアンティークジュエリーのコレクター及びアールヌーボーのファンに非常に探されているモチーフの一つです。
「移ろいの美」を象徴する銀杏、西洋で作られたジュエリーなのに日本人の琴線に触れるところがあり、親しみやすく懐かしい気持ちさえしてくるジュエリーです。
完璧なフィリグリーそしてミルグレイン
宝石を使わずゴールドだけで完璧に銀杏を表現しています。
19世紀末はフランスで最も優れたフィリグリー細工が作られた時代。
ゴールドをまるで様々な太さの「糸」のように自在に操り、生命力豊かな銀杏の葉を脈々と描いています。
細かなミルグレインもこの時代ならではの完成度です。
裏側にもミルを打つというこだわりようです。
銀杏のモチーフは大小5つ。
それぞれがある程度自由に動くようになっているため、首のラインに美しく沿います。
銀杏の葉っぱ以外のところには、「マーユ」と呼ばれる1880-1900年頃のフランスのゴールドのジュエリーによく用いられる網目状のモチーフが後ろまでぎっしりと入れ込まれています。
そのおかげで横や後ろまで華やぎが出て、着けたときに美しいネックレスです。
長さは46センチ。
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知られざるアールヌーボーの本質
しなやかな曲線と自然への感性。
日本でも人気の高いアールヌーヴォー様式ですが、その「本質」は意外に知られていません。
アールヌーヴォーは19世紀末(1900年前後)、あらゆる芸術領域を席捲した装飾様式です。
ジュエリーの世界でアールヌーボーは、「貴石をシンメトリーにセッティングした従来のジュエリー作り」から「宝石的価値ではなく色によって選別した石を、美しく彫金されたゴールドにニュアンスカラーのエナメルと共にセットしたジュエリー」への脱皮をもたしました。
アールヌーボーと言うと柔らかな曲線から「ロマンチックな自然主義」と言うイメージが強いことでしょう。
しかしその根底には世紀末ならではの「デカダンス」があります。
溢れんばかりに花をつけた枝や、豊かに広がりうねる長い髪といったアールヌーボーの典型的な図柄の裏には、「自然の残酷さや死」が念頭にありました。
アールヌーボーのジュエラーとパリ万博(1900)
ジュエリー界でもっとも早く「アールヌーボー」の言葉を使い出したのは、ルネ・ラリック(Rene Lalique)。
下記は1902年にイギリスで発行された「Magazine of Art」に掲載されたルネラリックのジュエリーデッサンです。
女性の顔と睡蓮が描かれたペンダントのデッサンですが、この頃はまだルネラリックはロンドンでは広くは知られていませんでした。
1900年のパリ万博では、ルネ・ラリック、メゾン・ヴェヴェール(Maison Vever/ヴェヴェール工房)、ルシアン・ガリヤール(Lucien Gaillard)の3人がジュエリー部門でグランプリを獲得します。
下記は1900年頃に製作された、ルシアン・ガリヤールの青い鳥の髪飾り。
鼈甲とプリカジュールエナメル、目の部分にダイヤモンドが入れられています。
アールヌーボーは東洋の美意識、特に日本の芸術に強い影響を受けましたが、この作品は私たち日本人が見ても、日本的な美しさを感じる作品ですね。
この万博では、ジョルジュ・フーケ(Georges Fouquet)とウジェーヌ・フィアートル(Eugene Feuillatre)が金賞を受賞しました。
ジョルジュ・フーケは1898年にランの花をモチーフにしたジュエリーでアールヌーボーの作品を初めて手がけます。
そしてポスターアーティストのアルフォンス・ミュシャと一緒に、いくつものプレートをチェーンでつなげたジュエリーを発表します。
下記は1900年にアルフォンス・ミュシャがデザインした、宝石商ジョルジュ・フーケの店舗です。
ステンドグラスやモザイクタイルの装飾等、ミュシャがポスターの中で描いたアールヌーボーのテーマや曲線が再現されています。
今日、このインテリアショップの内装は、パリのカーナヴァル美術館で見ることが出来ます。
また同年代のジュエラーの中でルネラリックと並び賞賛を浴びていたのが、ベルギーのジュエラーであるフィリップ・ウォルファー(Philippe Wolfers)です。
アールヌーボージュエリーに関して更に詳しい情報は、アールヌーボー(アールヌーヴォー)のアンティークジュエリーの特徴と魅力をご参照ください。
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