アンティークジュエリーでも非常に数の少ないカンティーユ細工
細工と言う意味で、これほど難易度が高いジュエリーは久しぶりに手にします。
まず精緻な金細工。
当店でもお探しの方が多いいわゆる「フィリグリー細工」に見えますが、1900年頃に最盛期を迎えるフィリグリー細工とは作りが異なります。
フィリグリーとは金を糸のように細くして縒って模様をつくる金細工のことを言いますので、そうした意味ではフィリグリー細工と呼べないこともないですが。
厚みのある紐のようにして、巧みに曲線で縒っています。
そしてその縒ったゴールドの紐にさまざまな模様をつけています。
その模様が最初は金彫りで施しているのだと思ったのですが、これはカンティーユです。
まず模様となるゴールドのパーツを作り、それを一つずつ蝋付けしています。
時代的にもカンティーユが最盛を極めるのは王政復古の時代ですから、頷けます。
フィリグリーで金の螺旋を描き、模様はカンティーユで入れる、ここまで気が遠くなりそうな高度な金細工のジュエリーは実に久しぶりです。
裏側を見るとその作りの細かさに言葉を失います
モチーフの花はカメリアでしょう。
花びらが重なり合う様子が、螺旋状に展開する見事なゴールドのラインで描かれています。
そして無数の天然真珠。
小粒の真珠は穴をあけられて、糸に通されているのです。
この糸というのは当時は、馬の髪を用いました。
中心部分の盛り上がりは、まず金の線で枠組みを作り、そこに真珠を編み込んで作り上げています。
後ろから見ますとその構造を見ることができます。
途方もない手間がかけられてます。
裏と言えばカンティーユは実に裏面までぎっしりと施されているのです。
非常に手間のかかるカンティーユをなぜ通常では目に入らない裏面にまで施したのでしょう、圧巻です。
そしてこれも裏から見て初めて分かることですが、正面から見ますとゴールドの線か紐のように見えたゴールドの螺旋は、強度を出すために横幅が大きくとられています。
そして幅広にとった側面に、メッシュ状に透かしを入れています。
言葉をなくすような手間がかけられているにもかかわらず、このメッシュ状の透かしは正面から見たときは角度によって僅かに見える程度です。
裏面にここまで手をかけているその心意気に畏怖を感じるほどです。
基本的にはブローチですが、チェーン通しがついておりペンダントとしても使えます。
ブローチが後年、ペンダントにも使えるよう加工されているのではなく、元々両方使えるように作られていることが分ります。
1830-1840年頃のフランス製で、ちょうど王政復古の時代が終わった直後の頃に作られたジュエリー。
ジュエリーの世界ではこの時代を「ロマンティック時代」と呼ぶことがあります。
地金は18金ゴールド。
注:チェーンはついていません。
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アンティークジュエリーの大きな醍醐味の一つはやはりその手の込んだ繊細な金細工の数々でしょう。
あまりに緻密な細工であるため、時として肉眼では見切れないほどの細かさです。
肉眼で見切れないほどの金細工を当時、どのようにして職人さんは製作していたのでしょう?
それは手の感覚だったと言います。
熟練した職人さんは最後は手の感覚で、金細工を仕上げていったと言います。
さて金細工といっても色々な種類がありますが、アンティークジュエリーに見られる細工を大まかにご紹介します。
まずは
1)フィリグリー(金や銀を糸のように細くして縒って模様をつくる金細工)
2)レポゼ(打ち出しの技法、金を表面から装飾するのではなく、裏面から打ち出すことで模様を作っていく方法)
3)カンティーユ技法(細い金線を蝋付けしく技法、線条細工)、グラニュレーション(粒金細工)があります。
今回は「カンティーユ」と「レポゼ」について、詳しくご説明します。
カンティーユ技法
カンティーユ(Cannetille)とは「金の刺繍」と言う意味で、細かい金の粒で装飾する技法のことです。
小さな金の粒を、一粒ごと熱をかけて留めてゆく、アンティークジュエリーで使われた金細工の中でも特に繊細な技法です。
金という素材が今以上に希少であった時代に少ない金で見栄えのある作品を作るために使われた手法です。
フランスでは19世紀初頭の王政復古の時代のジュエリー、イギリスでも同時期のジョージアンの時代に見ることが多い技法です。
下記は当店で販売済みのフランス王政復古の時代のカンティーユのブレスレットです。
下記は一般的にカンティーユ技法のジュエリーが作られた19世紀初頭よりかなり後年の作品になりますが、やはりカンティーユ技法が用いられたペンダントです。
美しく特徴的な金細工ですのでとても探されていますが、カンティーユ技法の用いられたアンティークジュエリーはフィリグリー細工以上に数が少ないです。
レポゼ
レポゼとは金細工の一種で、「打出し技法」、レリーフ状に打ち出す鍛金技術のことです。
古典的な打ち出しの技法で、もっとも古い金属加工法のひとつと言われています。
元々は古代メソポタミア文明の宝飾品にその歴史は遡ります。
下記は当店で販売済みのアールヌーボーのゴールドネックレスで、隆起した薔薇のモチーフはレポゼ技法によって表現されています。
後にレポゼを復活させて有名になったのが、あのカステラーニ一族です。
まずへこみ台にあて、地金裏面を叩き出します。
それから表面もヤニ台に当て、鏨で細工することで、まるで鋳型を取って裏抜きしたような肉盛りされたようなボリュームが出ます。
立体的にすることでボリュームがあるように見えるので、金が現在以上に貴重であった昔に使われた技法です。
下記は様々な金細工技術が駆使されたカステラーニのペンダントです。
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