レースのような金の刺繍カンティーユ
1820年頃のフランス製。
糸のような金を細く編みこんだブレスレット。
こんなに細いゴールドの糸をメッシュの状態にしたジュエリーは見たことがございません。
王政復古時代の、洗練のきわみ。
8連の編みからなるブレス部分は、その薄さにまるで「レース」でも身に着けているような錯覚に陥ります。
あまりの繊細さに糸がほずれたりしないかと本気で心配になりますが、そこはゴールドでしっかり編みこまれたものなので、実は非常に堅牢なのです。
何度身に着けても、それがゴールドという硬い金属でできていることを忘れそしてまた思い出し、悦に浸ることになるでしょう。
3色のゴールドと金の刺繍カンティーユ
メッシュの部分だけではありません。
この華やかなブレスレットの「すべて」がゴールドだけできているのです。
中心の迫力ある花のモチーフ箇所は、少し黄緑帯びたイエローゴールド、通常のイエローゴールド、ピンク帯びたイエローゴールドの3色のゴールドが巧みに使われています。
ここでまたしてもゴールドだけで出来ているということが頭から抜けてしまうのです。
頭では理解しながらも、感覚として信じられないような表現の豊かさ。
お花の箇所では裏側からゴールドを打ち出すレポゼの技術や「金の刺繍」と呼ばれるカンティーユ、ミルグレイン、エングレーヴィング(彫り)。
金細工のあらゆる、しかもいずれも最高峰の技術がこれだけ一同に介したジュエリーは他にありません。
技術だけでなくその類稀なセンスも傑出しています。
その流れるようなラインはゴールドで書かれた絵のようです、またメッシュや透かしからは彫刻的な空間美も感じさせます。
お花の脇からブレスを開閉ができるようになっていますが、それも目を凝らしてじっくり見ないと気づかないぐらい、巧く出来ています。
こちらのブレスを譲ってくださった現地のディーラーさんから、「同時代の同様の金細工で作られたジュエリー」が掲載された本を見せてもらったのですが、その中でもこうした3色のゴールドが使われたジュエリーは1つもありませんでした。
アンティークジュエリーのカタログにも勝る、珍しい作品。
王政復古はシェルシュミディで力を入れている時代の一つですので、まさに当店を代表するジュエリーになりました。
地金は18金ゴールド。
ブレスの全周は約16センチです(サイズ直し不可)。
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アンティークジュエリーの大きな醍醐味の一つはやはりその手の込んだ繊細な金細工の数々でしょう。
あまりに緻密な細工であるため、時として肉眼では見切れないほどの細かさです。
肉眼で見切れないほどの金細工を当時、どのようにして職人さんは製作していたのでしょう?
それは手の感覚だったと言います。
熟練した職人さんは最後は手の感覚で、金細工を仕上げていったと言います。
さて金細工といっても色々な種類がありますが、アンティークジュエリーに見られる細工を大まかにご紹介します。
まずは
1)フィリグリー(金や銀を糸のように細くして縒って模様をつくる金細工)
2)レポゼ(打ち出しの技法、金を表面から装飾するのではなく、裏面から打ち出すことで模様を作っていく方法)
3)カンティーユ技法(細い金線を蝋付けしく技法、線条細工)、グラニュレーション(粒金細工)があります。
今回は「カンティーユ」と「レポゼ」について、詳しくご説明します。
カンティーユ技法
カンティーユ(Cannetille)とは「金の刺繍」と言う意味で、細かい金の粒で装飾する技法のことです。
小さな金の粒を、一粒ごと熱をかけて留めてゆく、アンティークジュエリーで使われた金細工の中でも特に繊細な技法です。
金という素材が今以上に希少であった時代に少ない金で見栄えのある作品を作るために使われた手法です。
フランスでは19世紀初頭の王政復古の時代のジュエリー、イギリスでも同時期のジョージアンの時代に見ることが多い技法です。
下記は当店で販売済みのフランス王政復古の時代のカンティーユのブレスレットです。
下記は一般的にカンティーユ技法のジュエリーが作られた19世紀初頭よりかなり後年の作品になりますが、やはりカンティーユ技法が用いられたペンダントです。
美しく特徴的な金細工ですのでとても探されていますが、カンティーユ技法の用いられたアンティークジュエリーはフィリグリー細工以上に数が少ないです。
レポゼ
レポゼとは金細工の一種で、「打出し技法」、レリーフ状に打ち出す鍛金技術のことです。
古典的な打ち出しの技法で、もっとも古い金属加工法のひとつと言われています。
元々は古代メソポタミア文明の宝飾品にその歴史は遡ります。
下記は当店で販売済みのアールヌーボーのゴールドネックレスで、隆起した薔薇のモチーフはレポゼ技法によって表現されています。
後にレポゼを復活させて有名になったのが、あのカステラーニ一族です。
まずへこみ台にあて、地金裏面を叩き出します。
それから表面もヤニ台に当て、鏨で細工することで、まるで鋳型を取って裏抜きしたような肉盛りされたようなボリュームが出ます。
立体的にすることでボリュームがあるように見えるので、金が現在以上に貴重であった昔に使われた技法です。
下記は様々な金細工技術が駆使されたカステラーニのペンダントです。
アンティークエピソード集のページでは、様々なアンティークに関するエピソードをご覧いただけます。
アンティークリング、アンティークネックレス、アンティークピアス、アンティークブレスレット等、希少なヨーロッパのアンティークジュエリーを随時100点以上揃えています。
シェルシュミディで取り扱うアンティークジュエリーは、全てオーナーが直接フランス、イギリスを主としたヨーロッパで買い付けてきたものです。