ジオメトリック模様がかっこいいアールデコのゴールドチェーン
アンティークチェーンは指輪やペンダントのように、明確な装飾様式が出ているケースは稀です。
しかしこのチェーンでは珍しくチェーンに特徴的な装飾様式が見られます。
作られたのは1920年頃、もっと正確に言えば1925年頃のアールデコのジオメトリックな装飾形式が如実に出たチェーンです。
アンティークチェーンの場合、その編み方からある程度の年代を特定することは可能ですが、これほどはっきりその時代を映したケースは珍しいです。
時代が求めた幾何学的パターン。
幾何学パターンが遠目から見ても特徴的で、また太さも重量もしっかりあるチェーンですので、ペンダントをつけずにネックレスとして単品で見映えがします。
通し輪に大きさのあるペンダントであれば、ペンダントを通すチェーンとしても使えそうです。
発色の良い美しいゴールドと艶消し
刻印としてはフランスの18カラットの刻印が押されていますが、より純金に近い色のゴールドの色をしています。
(フランスの刻印の最高位カラットは18カラットですので、それより高カラットのジュエリーにも18金の刻印が押されます。)
一方このチェーンには、ハイカラットゴールド特有のギラギラした照りはありません。
艶を消すために、全てのパーツに艶消しをしているからです。
この艶消しは、パーツの表だけでなく裏面と側面にも施されています。
このような手間がかけられていることで、艶やかでありながら上品なチェーンになっています。
まだ驚きなのは、このチェーンは楕円形のパーツを小さな円形のパーツでつなげているのですが、その接続部分が片側は動くようになっていて、片側は固定されていることです。
固定している箇所は溶接作業が必要になり、これだけの数がありますから大変な作業です。
こうすることで、チェーンの可動域が限定され、装着時も特有の張りが出て乱れが出ずらいです。
このチェーンに限らず直線的で一見シンプルに見えるアールデコジュエリーで良質なものは、高度な宝飾技術に裏打ちされています。
デザインを直線的に仕上げても、細部まで綿密に作り上げられていなければ、100年程の経た後も普遍的な美しさを持ち続けることはできません。
チェーンの長さは、42.5センチ。
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1930年、著名なデザイナーであったポール・イリブ(Paul Iribe)はアールデコのジュエリーについて以下のように述べています。
「キュービズムとマシンデザインのために、花を犠牲にしている」。
アールデコ期にも以前として花や葉っぱなどの自然主義のモチーフのジュエリーも存続しつづけますが、「抽象的なジェオメトリックなデザインの台頭」なしにこの時代の動きは語れません。
下記は1927年、Lacloche Freres(当時美しいアールデコのジュエリーを多く生み出したスペインのメゾン) によるサイプレスの枝を描いたピンです。
同じく葉や枝をモチーフにしたジュエリーでも、19世紀のものとは一線を画したジュエリーであることが一目瞭然です。
アールデコを生み出した社会要因
ではなぜそのようなラディカルな変化がデザインの世界に起きたのでしょう?
パリで「アールデコ」という新しい芸術が発祥した理由は、まずなんと言っても第一次世界大戦によって古い価値観が崩れ、女性の社会進出をはじめとした社会革新が起きたことです。
社交界で豪華なジュエリーを付けるのは前世紀から変わりませんが、当時の富裕な女性たちは、デザインの面で大きく変化したジュエリーを好むようになります。
化粧をしたりタバコもすったモダンな富裕な女性たちのライフスタイルの変化が、ジュエリーのデザインにも変化をもたらします。
彼女たちの求めた洋服やジュエリーは、第一次大戦前までの貴族社会の中で続いてきたものとは全く違うクリエイションによってもたらされています。
ドレスデザイナーたちは第一次世界大戦後のこの時代によりシンプルなラインのドレスを作り始めました。
下記は当時活躍したファッションイラストレーターGeorges Lepapeのデッサンです。
当時の女性のイメージが掴めるでしょうか?
加えて時の経済・金融事情も新しい装飾芸術を後押しした要因のひとつでした。
1914年以前のフランスは安定した金利に支えられた安定経済だったのに対し、20年代は毎日のようにフランの価値が下がっていく激動の時代でした。
超インフレが起こり、毎日のように通貨の価値が落ちて生きます。
1919年時に5.45フランだったアメリカドルは、1926年7月にはなんと50フランに!
このような状況のもと、人々は自分の財産を換金性の高いものへ、つまり絵画・宝石・芸術品に投資していきます。
こうしてアールヌーヴォーが陰りを見せはじめた1900年ころから冷え込んでいた宝飾業界に再びお金が流れ、活気が戻り始めるのです。
アールデコジュエリーに関して更に詳しい情報は、アールデコジュエリー その特徴と魅力をご参考ください。
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