彼女の名前はLine Vautrin(リーン・ヴォートラン)
戦後フランスのジュエリー作家の中でもっとも有名な女性、リーンヴォートラン。
パリのヴィンテージディーラーに「リーンヴォートラン」と言えば誰もが目が輝かせる、フランスのレジェンド。
このペンダントトップは1940-1956年頃に製作されたものと推定されます。
リーンヴォートランは2000年以降、欧米のオークション市場で高騰を続けてきました。
パリ、フランクフルト、NYのオークションで高値を更新し続け、今ではすっかり高値圏で評価の定着したジュエラーです。
こちらのペンダントはやはり彼女の作品が大好きなパリのディーラーさんのところで見つけましたが、その時、イギリス人ディーラーさんと大取り合いになりました!
日本ではまだ知る人がほとんどいませんでしたので、ずいぶん長いこと当店にて保管しておりました。
日本で彼女の市場がどれだけあるのかは未知ですが、当店が先駆けでご紹介できることはしていきたいと言う思いから放出することにしました。
リーンヴォートランのPlanche(板)
リーンヴォートランを代表するジュエリースタイルの一つに「Planche(板状のもの)」があります。
このペンダントのような板状のペンダントやブローチです。
多くの場合、このペンダントのようにゴールドメタルで作られました。
聖書からモチーフのインスピレーションを受けているようで、聖人をモチーフにしています。
ヴォートランは、カトリックをモチーフにした作品も多く手がけていますが、夢心地のような彼女の作風から宗教色はまったく感じられません。
戦後ですが全ての製作をリーンヴォートランは自分で行っていました。
鏨で打たれた細工などまるで彫刻のようです。
外堀には濃紺のエナメルが施されています。
モダンでどこか愛らしいゴシックな世界観は、他の誰の作品にも似ていないヴォートラン特有のものです。
この作品にとてもよく似たペンダントが、専門書にありましたのでまたブログでもその箇所を抜粋してお伝えします。
裏面にLine Vautrinの署名があります。
注:上部の小さなスクエアのモチーフにも、エナメルが外縁に入っていたかもしれません。
後年剥げてしまったのか、あるいは元々この部分には入っていなかったのかはっきりしません。
チェーンはついていません。
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フランスジュエリーは1920年ころが最盛期で、その後徐々に減速。
第二次世界大戦後は、その覇権をアメリカに奪われることになります(そして大量生産時代がやってきます)。
しかし作家性のある優秀なジュエラーが戦後フランスで一人も生まれなかったのかといえば、もちろん例外もあります。
その代表的な人物がリーン・ヴォートラン。
ヴォートランは、主に50-60年代に活躍したフランスのジュエラーで、フランスの戦後ジュエリー史において間違いなく最も評価されているジュエラーです。
リーンヴォートランのジュエリーの特徴の一つに、「質素な素材」から歓喜に満ちた独特の世界を生み出していると言う点があります。
LVの好んだ素材は例えばブロンズ、真鍮などのメタル(このペンダントのようなメタルは、彼女の比較的初期の作品に良く使われました)、鉄の糸、焼いた土、陶器、ガラスの破片、象牙。
そして後年、彼女の地位を決定づけたのが、 RESINE(レジーヌ、樹脂)。
このレジーヌを使ったジュエリーが彼女の後年のスタイルになります。
全ての製作を自分で行い決して十分な評価や収入をえていなかったLVは、1986年にロンドンベースのアンティークディーラーDavid Gillに見出され、それをきっかけにロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館をはじめ、世界の権威ある美術館で所蔵展示されるようになります。
ひと目で彼女の作品だと分かるような強烈な個性があり、現在では時に著名なアールヌーボーの作家ジュエリーより高値で、ヨーロッパやアメリカの著名なオークションで取引されています。
しかし日本ではほぼ無名で、扱っているところも見れるところもありません。
パリの装飾美術館にも、数点貯蔵されています。
アンティークエピソード集のページでは、様々なアンティークに関するエピソードをご覧いただけます。
アンティークリング、アンティークネックレス、アンティークピアス、アンティークブレスレット等、希少なヨーロッパのアンティークジュエリーを随時100点以上揃えています。
シェルシュミディで取り扱うアンティークジュエリーは、全てオーナーが直接フランス、イギリスを主としたヨーロッパで買い付けてきたものです。