アール・ヌーヴォーは2つの顔を持った芸術です
「アールヌーヴォー様式」と言えば、柔らかな曲線のロマンティックな自然主義のジュエリーを思い浮かべることでしょう。
この指輪でも、アールヌーボー様式で最も好まれた題材の一つである「女性」が描かれています。
植物は種が発芽し花開き、やがて新しい種子を育みます。
新たな生命をその身に宿すという点で、「女性」は植物と同様にアールヌーボーの作家に好まれて描かれた題材です。
女神のように神秘的な顔と、豊かに広がりうねる長い髪、うっとりするほどに美しい女性の姿。
しかしアールヌーヴォーの源泉は、溢れんばかりの生命力や自然への憧憬だけでなく、世紀末ならではの不吉な予感(終末思想)、デカダンスにあったことをご存知でしょうか?
美しいだけでなく、どこか妖しげな魅力がある女性像の指輪。
全てがゴールドの彫琢だけで表現され、硬い素材で模したとは思えないほど女性の表情は柔らかく、まるで絵画のようです。
このような曲線をゴールだけで表現しているのですから、その表現力・技術力には驚かされます。
ピアスのように埋め込まれたダイヤモンド
女性の顔をじっくり見てまいりましょう。
彫りの深い目に、美しく伸びた眉、すっと通った長い鼻筋、きゅっと盛り上がった若々しい頬、額を出した豊かな長い髪。
まるでギリシア神話の女神あるいは妖精のような、生命力に溢れたそれは美しい女性が、ゴールドの凹凸と模様だけで描かれています。
手で触れてしまいたくなるぐらいリアルで柔らかい女性の姿、ジュエラーとしての才能だけでなく作者の「芸術性」が伝わってきます。
そして・・・女性の耳元にとても小さいダイヤモンドが埋め込まれています。
まるで「ピアス」のようですね。
この最後の一滴の「ピアス」で、私は決定的にノックダウンされてしまいました・・・。
1890年-1900年頃のフランス製。
18金ゴールド。
指輪サイズは13号(有料でサイズ直し可)。
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知られざるアールヌーボーの本質
しなやかな曲線と自然への感性。
日本でも人気の高いアールヌーヴォー様式ですが、その「本質」は意外に知られていません。
アールヌーヴォーは19世紀末(1900年前後)、あらゆる芸術領域を席捲した装飾様式です。
ジュエリーの世界でアールヌーボーは、「貴石をシンメトリーにセッティングした従来のジュエリー作り」から「宝石的価値ではなく色によって選別した石を、美しく彫金されたゴールドにニュアンスカラーのエナメルと共にセットしたジュエリー」への脱皮をもたしました。
アールヌーボーと言うと柔らかな曲線から「ロマンチックな自然主義」と言うイメージが強いことでしょう。
しかしその根底には世紀末ならではの「デカダンス」があります。
溢れんばかりに花をつけた枝や、豊かに広がりうねる長い髪といったアールヌーボーの典型的な図柄の裏には、「自然の残酷さや死」が念頭にありました。
アールヌーボーのジュエラーとパリ万博(1900)
ジュエリー界でもっとも早く「アールヌーボー」の言葉を使い出したのは、ルネ・ラリック(Rene Lalique)。
下記は1902年にイギリスで発行された「Magazine of Art」に掲載されたルネラリックのジュエリーデッサンです。
女性の顔と睡蓮が描かれたペンダントのデッサンですが、この頃はまだルネラリックはロンドンでは広くは知られていませんでした。
1900年のパリ万博では、ルネ・ラリック、メゾン・ヴェヴェール(Maison Vever/ヴェヴェール工房)、ルシアン・ガリヤール(Lucien Gaillard)の3人がジュエリー部門でグランプリを獲得します。
下記は1900年頃に製作された、ルシアン・ガリヤールの青い鳥の髪飾り。
鼈甲とプリカジュールエナメル、目の部分にダイヤモンドが入れられています。
アールヌーボーは東洋の美意識、特に日本の芸術に強い影響を受けましたが、この作品は私たち日本人が見ても、日本的な美しさを感じる作品ですね。
この万博では、ジョルジュ・フーケ(Georges Fouquet)とウジェーヌ・フィアートル(Eugene Feuillatre)が金賞を受賞しました。
ジョルジュ・フーケは1898年にランの花をモチーフにしたジュエリーでアールヌーボーの作品を初めて手がけます。
そしてポスターアーティストのアルフォンス・ミュシャと一緒に、いくつものプレートをチェーンでつなげたジュエリーを発表します。
下記は1900年にアルフォンス・ミュシャがデザインした、宝石商ジョルジュ・フーケの店舗です。
ステンドグラスやモザイクタイルの装飾等、ミュシャがポスターの中で描いたアールヌーボーのテーマや曲線が再現されています。
今日、このインテリアショップの内装は、パリのカーナヴァル美術館で見ることが出来ます。
また同年代のジュエラーの中でルネラリックと並び賞賛を浴びていたのが、ベルギーのジュエラーであるフィリップ・ウォルファー(Philippe Wolfers)です。
アールヌーボージュエリーに関して更に詳しい情報は、アールヌーボー(アールヌーヴォー)のアンティークジュエリーの特徴と魅力をご参照ください。
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