可愛らしく美味しい栗がモチーフのネックレス
1890年頃のフランス製。
丸みを帯びた実にギザギザの葉っぱち、どこかで見たようなこのフォルム。
そうなんです。モチーフは、栗です!
秋を象徴する、そしてフランス人がこよなく愛する栗ですが、栗がジュエリーのモチーフになっているのは、とても珍しいです。
アールヌーボー期に作られたジュエリーなのですが、その発想の斬新さがやはりヌーボーらしいです。
食べずにずっと見てとっておける栗、世界で最も贅沢な栗です。
際限のない、アーティスティックな試み
栗という難しいモチーフを、ゴールドだけで果敢に表現しています。
栗のゴツゴツとした硬い皮部分と、その隙間から見える薄皮を、全てゴールドで表現しているところなど、他にない面白さです。
栗表面のザラザラ感、細い金の棒を刻んで模様をつけた枝部分など、どこまでも写実的です。
葉っぱ部分はすべて艶消しが施されていて、金彫りで細かく葉脈を作っています。
しかも実のざらざらした部分や葉脈を彫ったり削ったり、ということを裏面まで行っています。
「どこまでやるのだろう?」いうぐらい、アーティスティックな試みを追っているところが、とてもヌーボーらしいです。
他にない独自性、無二の面白さがあるネックレスです。
モチーフの間には天然真珠が埋めこまれています。
また15グラム程と手にすると驚くほど重量感があります(通常のこうしたネックレスの2倍ほどの重みなのです)。
大人の遊び心をくすぐる栗というモチーフが、こうした素材の高級感や極めきった細工によって活きてくるのです。
地金はすべて18Kゴールド。
ネックレスの長さは47.5センチ。
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知られざるアールヌーボーの本質
しなやかな曲線と自然への感性。
日本でも人気の高いアールヌーヴォー様式ですが、その「本質」は意外に知られていません。
アールヌーヴォーは19世紀末(1900年前後)、あらゆる芸術領域を席捲した装飾様式です。
ジュエリーの世界でアールヌーボーは、「貴石をシンメトリーにセッティングした従来のジュエリー作り」から「宝石的価値ではなく色によって選別した石を、美しく彫金されたゴールドにニュアンスカラーのエナメルと共にセットしたジュエリー」への脱皮をもたしました。
アールヌーボーと言うと柔らかな曲線から「ロマンチックな自然主義」と言うイメージが強いことでしょう。
しかしその根底には世紀末ならではの「デカダンス」があります。
溢れんばかりに花をつけた枝や、豊かに広がりうねる長い髪といったアールヌーボーの典型的な図柄の裏には、「自然の残酷さや死」が念頭にありました。
アールヌーボーのジュエラーとパリ万博(1900)
ジュエリー界でもっとも早く「アールヌーボー」の言葉を使い出したのは、ルネ・ラリック(Rene Lalique)。
下記は1902年にイギリスで発行された「Magazine of Art」に掲載されたルネラリックのジュエリーデッサンです。
女性の顔と睡蓮が描かれたペンダントのデッサンですが、この頃はまだルネラリックはロンドンでは広くは知られていませんでした。
1900年のパリ万博では、ルネ・ラリック、メゾン・ヴェヴェール(Maison Vever/ヴェヴェール工房)、ルシアン・ガリヤール(Lucien Gaillard)の3人がジュエリー部門でグランプリを獲得します。
下記は1900年頃に製作された、ルシアン・ガリヤールの青い鳥の髪飾り。
鼈甲とプリカジュールエナメル、目の部分にダイヤモンドが入れられています。
アールヌーボーは東洋の美意識、特に日本の芸術に強い影響を受けましたが、この作品は私たち日本人が見ても、日本的な美しさを感じる作品ですね。
この万博では、ジョルジュ・フーケ(Georges Fouquet)とウジェーヌ・フィアートル(Eugene Feuillatre)が金賞を受賞しました。
ジョルジュ・フーケは1898年にランの花をモチーフにしたジュエリーでアールヌーボーの作品を初めて手がけます。
そしてポスターアーティストのアルフォンス・ミュシャと一緒に、いくつものプレートをチェーンでつなげたジュエリーを発表します。
下記は1900年にアルフォンス・ミュシャがデザインした、宝石商ジョルジュ・フーケの店舗です。
ステンドグラスやモザイクタイルの装飾等、ミュシャがポスターの中で描いたアールヌーボーのテーマや曲線が再現されています。
今日、このインテリアショップの内装は、パリのカーナヴァル美術館で見ることが出来ます。
また同年代のジュエラーの中でルネラリックと並び賞賛を浴びていたのが、ベルギーのジュエラーであるフィリップ・ウォルファー(Philippe Wolfers)です。
アールヌーボージュエリーに関して更に詳しい情報は、アールヌーボー(アールヌーヴォー)のアンティークジュエリーの特徴と魅力をご参照ください。
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