緻密な粒金、ミルグレイン
アールデコ様式のダイヤモンドリングです。
ダイヤモンドはメイン石の1点のみですが、小さなダイヤモンドが他にもあるような目の錯覚を起こすリングです。
その理由は細かな粒金。
30箇所以上に渡って駒かな粒金が至るところに施されていて、光に反射してまるで小さなダイヤモンドが埋め込まれているように見えます。
全体はホワイトゴールド(18金)ですが、ちょっとプラチナに見えるような落ち着いた色合いのホワイトゴールドです。
フランスではよくこの時代のホワイトゴールドのことを「or gris(グレイゴールド)」と呼びますが、現代の18カラットゴールドとは割る金属が少し異なるため、このような独特の落ち着いた色合いをしていることが多いです。
細工上のもう一つの見どころはミルグレインです。
モチーフの上下や側面、複数個所に細かなミル打ちが施されていて、緻密な細工が魅力的です。
幾何学的なアールデコデザイン
デザイン的にもちょっと変わったリングです。
メインのダイヤモンドはバターカップ(キンポウゲ)の形の台座にセットされています。
このような形の台座や1900年頃のピアスや指輪によく見られます。
このリングも1900年頃に製作されたのではないかと思うところですが、もう少し後年の製作だと思います。
全体にホワイトゴールドを用いるようになるのは、一般的には1920年代以降になります。
またメイン石以外のベゼルの形には、アールデコらしい幾何学的なシルエットが見られます。
指輪が中心部に向かって盛り上がったような、ドーム状のシルエットもアールデコ期に多く見られます。
時代の過渡期に作られたデザインも個性的です。
20世紀初頭のフランス製。
指輪サイズは13号(有料でサイズ直し可)。
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アンティークジュエリーでもホワイトゴールドは使われます。
「ホワイトゴールドのジュエリーは1920年以降ぐらいにしか作られなかった」とおっしゃるディーラーさんもいらっしゃるようですが、これは完全に間違いです。
全体がホワイトゴールドで出来たジュエリーは確かに1920年頃からのジュエリーに多いのですが、ダイヤモンドの台座周りなどごく一部にホワイトゴールド(グレイゴールド)を使う方法は1900年頃のジュエリーによく見られますし、ホワイトゴールドそのものは1870年頃から存在します。
そして全体がグレイゴールド(ホワイトゴールド)のジュエリーも、フランスでは早くは1910年頃のジュエリーに見られます。
具体例とともにご紹介しましょう。
例えば下記はフランスの権威あるジュエリー専門のオークション会社のカタログからの抜粋です。
「1910年頃、グレイゴールド(or gris)の円形ブローチ」と記載されています。」。
この時代に既にホワイトゴールドは存在し、しかも単独でジュエリー全体に使われていることが分かります。
ちなみにホワイトゴールドとグレイゴールドの違いですが、基本的に同じものです。
下記もフランスの権威あるジュエリー専門のオークション会社(現地の専門家が複数人で査定してます)のカタログより抜粋します。
「1900年頃、プラチナとグレイゴールド(ホワイトゴールド)」と記載されています。
1900年頃に既にホワイトゴールドが存在し、このジュエリーではプラチナと張り合わせで使われています。
また「1920年代以降のアールデコのジュエリーで、ホワイトゴールドでできたものは質が悪いジュエリー、あるいはフェイクアンティークジュエリーの場合が多い。」とおっしゃるディーラーさんもいるようですが、良識あるフランス人ディーラーが聞いたら卒倒してしまいますし、私も聞いてショックを受けました。
ホワイトゴールドとプラチナのアンティークジュエリーの違いは、美しさやクオリティーの良し悪しにあるのではありません。
あえて言うなら「希少さ」です。
確かに当時、プラチナはゴールドに比べてずっと高価な金属であるのと同時にゴールドより硬く、「珍しいもの」だったのです。
「数が少ない=希少性のあるもの」がアンティークの世界では後年より高額で取引されていくことになります。
そこから一人歩きして「プラチナのアンティークはハイクオリティー」という説が出てきたのでしょう。
しかしプラチナは特徴としてよく伸びるのですが何といっても硬く、こまかな金細工を施すにはホワイトゴールドのほうが適していることも多々ありました。
どちらが良いかはジュエラーがケースバイケースで判断、もちろん好みもあります。
カルティエはいち早くプラチナを好んだとか、そういう違いもあります。
しかしホワイトゴールドでも良質なアンティークジュエリーが作られています。
下記は1925年にブシュロンが製作したジュエリー。
上記は外縁の白い金属がホワイトゴールド、下の作品はメインの白い金属がやはりホワイトゴールド(グレイゴールド)です出来ていることが明記されています。
説明文の「or girs」がグレイゴールドと言う意味です。
もちろんハイクオリティーな正真正銘のアールデコジュエリーです。
フランスは歴史的にゴールドが好きな民族で、早くからハイカラット(18金)ゴールドでのジュエリーの製作が始まっていますから、20世紀初頭にプラチナが市場に出始めてそれはある部分では一世を風靡しますが、それ以前のゴールドで作られるジュエリーが完全に取って代わることはありませんでした。
ゴールドの方が柔らかく細工がしやすいため、適性によって使い分けています。
ちなみに優れたアールデコのジュエリーはプラチナやホワイトゴールドだけでなく、時には銀でも作られています。
下記は1912年かのジャン・デプレが製作したネックレス。
銀(argent)とイエローゴールド(or)を用いてることが明記されています。
年代的には少し早めですが、完全なアールデコのジュエリー、もちろんハイクオリティーなのは言うまでもありません。
ホワイトゴールド(グレイゴールド)の関しては、イギリスに関しては事情が異なるところがあります。
イギリスとフランスでは主たるゴールドのカラットが異なり、特にカラーゴールドの発展の仕方は異なるところが多いのです。
どの世界でも適当なことを言う人はいて、ヨーロッパのディーラーさんもそれは同じです。
しかし何か聞いてそれをそのまま鵜呑みにするのではなく、調べないとそのまま誤った情報を伝達してしまうことになります。
ディーラーであればそれが本当に正しいのかを実例と共に検証していかなくていけないのです。
地味な作業ですが、実例と共に考察を深めていくことで、ようやく正確な知識が身についていきます。
アンティークエピソード集のページでは、様々なアンティークに関するエピソードをご覧いただけます。
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シェルシュミディで取り扱うアンティークジュエリーは、全てオーナーが直接フランス、イギリスを主としたヨーロッパで買い付けてきたものです。