--- アンティークジュエリーについて ---アンティーク真珠について

「アンティーク=天然真珠」だと思っていませんか? アンティークジュエリーに詳しい方でしたら「昔は養殖の技術がなかったのだから、アンティークジュエリーで使われている真珠は全て天然真珠ですよ」といったことを聞かれたことがあるでしょう。
これはアンティークジュエリーの業界のセール文句になっているようですが必ずしも正しくはありません。
アンティークジュエリーに使われている真珠の多くが天然真珠です。
しかし全てが天然真珠ではありません。

上記の「アンティーク真珠=全て天然」説はヨーロッパで養殖真珠が本格的に市場に出始めるのは、一般的に1920年代頃からと言われていますからそれに基づいた論拠ということになります。
しかし養殖真珠はそれ以前にヨーロッパに存在し、一説には1880年頃から存在していたと言われています。
実際に1900年頃のヨーロッパのアンティークジュエリーから一部に使われています。
例えば下記をご覧ください。

こちらはフランスの有名なジュエリー専門のオークション会社のカタログからの抜粋です。
クリスティーズをはじめ世界の著名なオークション会社の競売では、真珠に関して天然か養殖か明記します。
この「真珠とダイヤモンドの指輪」は「1900年頃に製作されたと」推定されていますが、ジュエリーの説明文のところに「Perles de culture(養殖真珠)」と言う記載があります。



同じカタログから別の事例をご紹介いたしましょう。
こちらは花綱模様の美しい典型的なベルエポック時代のダイヤモンドと真珠のペンダントです。
こちらは1910年頃の推定と先ほどの作品より僅かに後年になりますが、こちらは「une perle en pampille(天然真珠の房飾り)」と記載があります。
天然真珠になります。



天然真珠の評価がもっとも高かったのは、20世紀の初頭です。
1900-1920年頃は非常に美しい天然真珠のジュエリーが作られた時代であるのと同時に、初期の頃の養殖真珠がジュエリーに使われはじめた時代でもあります。

この時代に天然真珠として最大に近い大きさの最高級の天然真珠を使ったロングネックレスは、現在の貨幣価値に換算して約10億円で取引されたと言う記録が残っています。

養殖真珠が多く市場に出回るようになったのは、1920年頃からです。
1940年代にはもう養殖真珠が凌駕していき戦後は言うに及びませんので、美しい天然真珠が用いられたアンティークジュエリーを探すのであればやはり1930年代頃までというべきでしょう。

「養殖真珠」といっても本当の初期の頃(20世紀初頭)の養殖真珠は真珠層が厚くとても出来がいいです。
例えば下記は、1920年前後に英国で製作された養殖真珠のネックレス。
真珠の粒は0.8センチ程です。

1920年養殖真珠

現代の養殖真珠とは雲泥のレベルの差があり、それはそれで近年では高額に取引をされています。
天然真珠への評価が高まる昨今では、初期の頃の養殖真珠はヨーロッパのオークション等で非常に高価な値段がついてきています。
養殖真珠へのイメージが大きく変わるのではないでしょうか?

良い天然真珠の条件とは 真珠は数千年前から、ありとあらゆる権力者に愛されてきた宝石です。
東西を問わず真珠は富と権力の象徴であり、王族、貴族、宗教者、マハラジャ等々に愛されてきました。

貝の体内から美しい真珠が生まれ出る神秘は世界各地でさまざまな伝承を生みだしました。
そしてそしてその想いの深さを証明するように、人々は真珠を多くのロマンティックな言葉で形容詞しました。

代表的なものに「月の雫(しずく)」という表現があります。
古代ローマの博物誌には「月夜に、海面に浮かび上がった貝がひらき天から舞い降りた霧を吸い込んで育てたのが真珠」という幻想的な解説が残されているそうです。
その他にも 天然では産出が稀な真珠は、「天の露」、「人魚の涙」、「小さな月」などと比ゆされます。

巻き、照り(光沢)、形、大きさ、色、キズ いわゆるダイヤモンドの4Cにあたる、真珠の評価基準は「巻き」「照り(光沢)」「形」「大きさ」「色」「キズ」の6つです。
このうち特に分かりにくいのは「巻き」と「照り」でしょうか。
「巻き」とは、真珠の芯となる核を取り巻く真珠層の巻きつきのことです。
薄巻きのものには真珠本来の美しさがなく、厚巻きのものほど価値があるとされています。
「照り〈光沢)」の良い真珠ほど珍重されてきました。

小粒な真珠の場合難しいですが、良い真珠には自分の顔が映るかどうかを見てみるのも良い方法です。
当店で販売しているガーランドの真珠のネックレスです。
房飾りになった真珠は光沢がありすぎて写真を撮るときに光を反射し、真珠の上部と下部でまるで色が異なるように映ってしまうほどでした。
(光の干渉です)

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イリデッセンス 真珠のクオリティーをあらわす言葉に「イリデッセンス」があります。
イリデッセンスとは英語で「虹色」という意味になります。
「干渉色」とも呼ばれ、真珠の表面に見られる光の波が重なって起こる虹色のことを指します。
もちろん照りの良い上質な真珠にしか見られないものです。

これは光の干渉によって起こります。
私たちが見ることのできる光にはすべて波があり、波なので上がって山となり、次に下って谷となります。
光によってこの周期(波長)は異なりますが、山と山、あるいは谷と谷が一致するように2つの波が重なり合うと、山の高さが2倍あるいは、谷の深さが2倍の波になります。
こうして波が重なり合って、強め合ったり、弱め合ったりする現象を干渉と言い、イリデッセンスの原因となります。
名称はギリシャ神話の虹の女神 Iris に因んでいます。

良い天然真珠の条件について、1750年の文献に既に下記のような記載があります。

「those of the finest shape are perfectly round, which fits them for necklace, bracelets, jewels for the hair・・・」
「their complexion must be milk white, not of a dead and lifeless, but of a clear and lively hue, free from stains・・・」。
 

最も良い形は、完全な真円でこうした形の真珠はネックレスやブレスレットに向く。
もっとも良い色はミルクホワイト、まず死んだような色をしていないこと、明るく活き活きとした色合いで、汚れがないこと。

天然真珠と養殖真珠の違い 天然真珠と養殖真珠、その違いは何でしょう?

退色
「真珠は退色する」と思ってらっしゃる方も多いのではないでしょうか?
でもアンティークジュエリーで使われている真珠は100年以上経ても、美しいまま残っていますよね。
なぜでしょう?

真珠を留める時にはまず、真珠に穴を開けますよね。
養殖真珠はその穴から核と真珠層の間に大気中のいろいろな物質が浸透して、中から退色が発生するのです。

これに対して天然真珠は核が比べ物にならないほど小さく、そのため内部からの変色がほとんどないのです。
また天然真珠のほとんど全体が真珠層でできているのに対して、養殖真珠は外側の0.01-2ミリが真珠層でその内部(つまり大部分)が人工的な核できています。
当然この核の大きさの違いが、退色の差になります。

大きさ
現在ではマーケットに出ている真珠のほとんどが養殖真珠ですので、ある程度大粒の真珠に慣れている方が多いかもしれません。
しかし本来、天然真珠は大きい真珠が非常に稀な存在で、5ミリ以上ある真珠はかなり大粒になります。
5ミリ以上になりますと真珠そのものが宝石としての価値が増し、近年ますますその評価は上がってきています。
それほど価格や価値に大きな影響を及ぼす真珠の大きさですが、現在の養殖真珠では大粒でも小粒でもそれほど値段に開きはありませんね。
なぜでしょう?

養殖、特に現在の養殖真珠は真珠層が0.01mm以下ととても薄いのです。
なんと1ミリもないのですよ!
その内側はすべて人工の核。
それだけ本来の真珠層が薄いのですから、真珠が大きくても小さくてももちろんその価値はほとんど変わりません。
天然真珠ですと、1ミリ大きくなるのにものすごい年月を要し、それだけ数が少なくなります。
そのため昔の天然真珠の場合大きさにより、値段の差があるのです。

指輪やピアスのように1-2粒の真珠は比較的大きな天然真珠が使われていることが多いですが、下記のような真珠のネックレスでは大粒の真珠だけを集めたものは少なく、真珠の粒の大きさがグラデーションになっていることが多いです。
それもそのはず、大粒の天然真珠は非常に数が限られていたからです。

アンティーク天然真珠ネックレス(モープッサン MAUBOUSSIN ケース入り)


アンティークジュエリーで見る天然真珠は真円のものばかりではありませんね。
なぜでしょう?
天然真珠は大きくなればなるほど歪になりがちです。
そのほとんどが大きな丸い核でできている現在の「真珠」では、真円は当たり前のように作れますが、天然真珠は、中までそのほとんどが真珠層。
とてつもなく長い時間をかけて真珠層が作られるので、天然真珠は大きくなればなるほど歪になりがちです。
自然のものですからそれが当たり前なのです。

天然真珠を使ったアンティークジュエリーで特に指輪などをじっくり観察してみますと、一見真円に見えるけれどよく見ると真珠の形が扁平だったり少しいびつな形をしていることが多いです。
天然真珠では完璧な真円の真珠は、大きくなればなるほど少ないもの。
完全な真円の真珠と言うのが稀になっていきますのでそこでセッティングの妙で、正面からみたときに真円に見える見えるように、絶妙な位置に穴を開けて真珠をセットしているのです。
この絶妙な按配がさすが昔の職人ならではです。
大きめの天然真珠を使ったアンティークジュエリーに出会ったら、横から見てみるのも面白いです。

下記は当店扱いの真珠とダイヤモンドのクラスターリング。
正面から見たときはほぼ真円に見えますが、横から見ますとかなりいびつな形であることが分かります。

ナチュラルパールクラスターリング(マーガレット、オールドマインカットダイヤモンド)

簡単に言えば天然真珠は養殖真珠と比べ物にならないほど長い年月を経てできたものだということです。
養殖真珠が数ヶ月で膨らむのに対して、天然真珠は何十年何百年という年月を経て(それも偶然の産物で)生成されるものなのです。


養殖真珠はそもそも人為的に核をいれているので、外側だけが真珠層。
内側はどんどん人工的な力で大きく膨らんでいくので、生成のために要するのは3ヶ月ほどです。
それから2年間ほど乾燥して(最近ではこの過程をもっと縮小した養殖真珠も多いよう)、2-3年後には商品として並んでいるのです。

一方の天然真珠は、あこや貝などの真珠層に偶然入った小さな異物を核にして、長い年月を経て真珠層が形成されます。
これは何十年以上要するものなのです。

天然真珠と養殖真珠の見分け方 天然真珠の見分けは熟練したディーラーさんでも100%は難しいです。
非科学的な方法を含めてご紹介ましょう。

舐める!
ちょっとユニークな方法で「舐めると分かる」というのが都市伝説のように広まっています。
天然真珠の場合少しざらっとした触感があると言われていますが、正確には「年月を経た真珠はざらっとした感触があることが多い」ということです。
舐めることで確認できる(ことが多いのは)、天然か養殖かというより、年月を経ているかどうかということです。
古い時代の真珠はやはり天然のものが多いので、「古い時代の真珠=天然真珠」の可能性は高くはなります。

真珠の穴とノットを見る
天然真珠は概して穴が小さめのことが多いです。
そのため真珠と真珠の間に結び目(ノット)が小さめであることが多いのです。
小さい珠ではノットが入っていないケースも多いです。
絶対的とは言えませんが、真珠の結び目から見える穴は見てみる価値があります。

色や艶、形
これは当たり前ですが、もちろん見るべきポイントです。
天然真珠の場合、複数の真珠が使われている時に微妙に形や色が異なる場合が多いです。
また真円ではない真珠は形だけでもう天然真珠と判断できるので判別が簡単な例です。

養殖の真珠ではあまり見られない色合いも存在します。
例えば下記のペンダントで中心の真珠は自然光の下ではほぼオフホワイトに見えますが、手で少し影を作ってあげますと実はピンクグレーの色調を持っていることが分かります。

天然カラー真珠とダイヤモンドの19世紀ペンダント(1870年頃、銀、オリジナルチェーン)

X線にかける
私が現地で慕っているディーラーさんは上記等の方法で判別できない真珠は、よくX線にかけています。
医療用のX線で十分で彼女は知り合いに頼んでかけてもらっていますが、日本では難しい方法です。
X線をかけることで核の状態を見ます。
もっともこれも養殖の初期の頃は核が小さく真珠層が厚いため、ある程度見慣れていないと難しいです。
またそれなりにお金のかかる方法ですので、ある程度大きな真珠にお薦めの方法です。

ヨーロッパの鑑別所で調べてもらう
これはかなりデリケートな話ですが、日本で天然真珠の鑑別書を出してもらうことはほぼ不可能です。
当店でも色々なところに問い合わせしましたが、天然真珠と養殖真珠の違いを書面で証明してくれるところはまずありません。

日本では市場にでている真珠のほとんどが養殖真珠で、「真珠」といえば一般的に養殖真珠を指すことが多いからです。
しかしヨーロッパやアメリカなど天然真珠との関わりが長い国においては、「真珠」といえば現在でも天然真珠を指します。
そして養殖の場合は「養殖真珠」とはっきり明記・明言することを強く求めています。


日本では、養殖の真珠に関しても「本真珠」「ナチュラルカラー」といった呼び方をすることがあります。
これは比較的物事を厳密にしないで、商用に様ざまなネーミングを生み出す日本的な慣習なのですが、これは欧米から見れば「養殖真珠を天然真珠のように思わせようとした意図的な改ざん」とみなされ、度々非難されています。

ヨーロッパには天然真珠と養殖真珠の鑑別、鑑別書もしっかり出してくれるところが何箇所もあります。
これはコストだけでなくとても時間がかかる方法ですので、すべてアンティーク真珠では行いませんが、特に大きさや質がよく天然か養殖かによって価値に大きな違いが出そうなものに関しましては、懇意にしているディーラーさんの協力を得て当店はロンドンの鑑別所にお世話になっています。

天然真珠と世界の歴史 現代では宝石の王様はダイヤモンドのようになってしますが、それは長い宝飾史のなかでは比較的近代のことです。
(ダイヤモンドが流行し始めるのは15世紀のフランスからで、現代のような地位を確立するのはそのずっと後です。)
それ以前の宝石の王様はずっと真珠でした。

クレオパトラの真珠
真珠について知られる歴史的な逸話に「クレオパトラの真珠」があります。
エジプトのクレオパトラは、ローマから来た将軍アントニウスと饗宴の豪華さを競った宴会を開きます。
当日クレオパトラが出した食事は確かに豪華なものではありましたが、これまでアントニウスが毎夜行ってきた宴会と特にかわったものでありませんでした。

アントニウスは、この賭けは自分の勝ちだと確信します。
しかしそのとき、クレオパトラは自らの耳から大きな真珠のイアリングの片方をはずし、最上の葡萄からできたビネガーに入れて(そのビネガーは強く激しく、真珠をたちまち溶かすことができる液でした)、それを飲み干し、賭けに勝つのです。
その真珠の価値は当時、百万オンス(1オンス=28.35グラム)にも相当するものでした。
言葉に詰まったアントニオの前で、クレオパトラはさらにもう片方の真珠のイヤリングをはずし、別の器に入れようとした。
しかしこの賭けの審判を引受けた将軍ルキウス・ブランクスは、女王の手を押しとどめ、この勝負はアントニウスの負けだと宣言します。

日本と真珠の歴史
日本も真珠とのかかわりが強い国のひとつです。
あまり知られていませんが、奈良の正倉院には今から1200年以上前の奈良時代の真珠が4000個以上保存されています。
その大半は聖武天皇の冠に使用されていたもの。
「御冠残欠」として残されています。

また。正倉院(しょうそういん)にはその他にも真珠でかざった刀や、念珠などがおさめられています。
人の命を「玉の緒」と言い、「魂」「霊」を「たま」と発音していることからも、日本において真珠も不思議な霊力を持った玉なのです。

アメリカと真珠の歴史
アメリカ大陸も天然真珠との結びつきが深く、アメリカの先住民は古くから真珠を装飾品としてきました。
1492年のコロンブスによるアメリカ大陸発見以降、カリフォルニア半島先端のラパスを中心として、大規模な天然真珠の採取がはじまります。
ここでとれたものは、ヨーロッパに運ばれヨーロッパの王族貴族のジュエリーになりました。
しかしあまりに採取しすぎたため、アメリか大陸での天然真珠は一時枯渇してしまいます。

しかし2度目の採取ブームがおきます。
1857年にニュージャージーで取れた天然の淡水真珠がティファニー社に高額で買い取られると、一攫千金を狙って多くの人が押し寄せ、これが「パールラッシュ」と呼ばれています。
下記は1880年頃に、ロンドンのジュエラーによって西オーストラリアの沿岸に派遣された真珠のスクーナー船で、作業員が貝をチェックしている様子が描かれています。

天然真珠

ペルシャ湾の真珠
天然真珠の歴史の中で有名なものに、ペルシャ湾で採れる真珠があります。
現在のイランとアラビア半島にはさまれたペルシャ湾は、約4000年前、四大文明のひとつメソポタミア文明が栄えていました。

このあたりは遠浅の海で、チグリスユーフラテス川からの栄養物が堆積されて、良質なアコヤガイが生息することで昔から有名です。
この地域で取れた天然真珠を特に「オリエントパール」と呼ばれることがあり、古くからヨーロッパの王侯貴族が高く評価してきました。

男性の宝飾品としての真珠
現代では想像しにくいですが、真珠の特にネックレスは男性にも重用されました。
その証拠に多くの時の王や王子は、必ずその肖像画の中で身につけています。
かつての皇族関係者の正式な肖像画で、真珠のネックレスや帽子や衣類にまったく真珠を身に付けていないものは探すのが困難なほどです。
これはヨーロッパだけではありません。
インドのマハラジャはその権力の証のために、多くのジュエリーを身に着けたことで知られていますが、19世紀マハラジャが特に愛したのがやはり真珠でした。
肖像画を見るとよく分かりますが19世紀中ごろまでの真珠は必ずオフホワイトかクリーム色です。

アンティークでしか存在しないハーフ真珠(ハーフパール) ハーフパールとは、真円真珠を半分にカットしたもの。
真珠の種類ではなく技法のひとつです。
基本的にはアンティークジュエリーでしか見つけることができない宝飾技術です。
養殖真珠が作られ始める前、真珠は現在では考えられないほど稀少な存在でした。
天然真珠があまりにも高価なものだったため、真珠を2つにカットしてジュエリーに用いられました、それがハーフパール(ハーフ真珠)です。

ブローチ等の場合、真円真珠は穴をあけて針に刺してセットしますが半円真珠の場合はそれが出来ないため、小さな爪で留めてセッティングを行います。
真珠をカットするだけでも大変な技ですが、それを留めるには更に高度な技術を要します。
最近では「アンティーク風」のものが流行しており、稀に「ハーフ真珠」と唄っている商品を見ることがありますが、アンティークジュエリーで見つかる天然真珠のハーフパールとは別ものです。
質の良いハーフ真珠がアンティークジュエリーでしか存在しないその理由は主に3つ挙げられます。

ハーフパールのアンティークブローチ(半円真珠、天然真珠)

1)天然真珠を真二つにカットするということは(もちろん手作業でやります)、とても高度な技術を要します。
真珠は硬度はそれほど高い宝石ではありませんし、自然の産物である天然真珠はそもそも完全な真円ではないですからなおさら難しいです。

2)何十年、何百年と持つようなハーフパールをセットするのが、至難の業だからです。
円形の真珠であれば穴を開けて針を刺すということができます。
これも非常に難しい技術ですがハーフパールの場合はそれができないため、すべて爪で留める必要があります。
天然真珠は小ぶりのものが多いですから、その一粒ずつを全て小さなゴールドの爪でセッティングする必要があるのです。

3)アンティークジュエリーの良質なハーフカット真珠は100年経ても退色しません。
現代の養殖真珠ですと、真珠の大方は人工的な核ですから、当然半分などにしてしまえばほどなくして退色が始まってしまうでしょう。
本物のハーフ真珠は、良質な天然真珠と、当時の高度な宝飾技術の両方があってようやく出来るものなのです。

様々なアンティーク真珠(バロック、淡水、マザーオブパール、クロチョウガイ) 真珠には天然真珠、養殖真珠という区分け以外にも産地や組成などにより、たくさんの呼称があります。
アンティークジュエリーでよく出てくる代表的な真珠の呼称をまとめると以下のようになります。

バロック真珠
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形成される段階で偶然に変形した歪んだパールのことです。
真珠が形成される初期段階で、核の周りに異物が付着し、そのまま形成されて変形が生じるためであるといわれています。
自然の中での偶然の結果なので、この世に二つと同じ形は存在せしないという、魅力があります。
現在では、市場でまわる真珠のほとんどが養殖真珠であるため、皆無になってしまいました。
アンティークジュエリーでは、ルネッサンスの頃から好まれて使用されて、19世紀末頃までのジュエリーに見ることができます。

マベ真珠
母貝をマベ貝とする真珠のことです。
アンティークジュエリーにおいても珍しいですが、時々出てきます。

アンティークシトリンネックレス(マベ真珠、アールヌーヴォー)

現代ではマベ真珠はほぼ全てが養殖で、天然のものは皆無ですが、当時はもちろんそんな技術はなく天然です。
養殖の技術は1970年代にTASAKIが開発しました。
貝殻の内側に人口の核や樹脂を貼り付けて、養殖します。
ですので現在ではマベパールは高いイメージがないかもしれませんが天然のマベ貝はまず母貝であるマベ貝の絶対量が少ないこと。
そして激しい潮流の中で生息しているため、小さな異物が入っても体外にすぐに出してしい、他の貝のよりもずっと真珠が出来にくいことで大変希少価値があります。
この指輪のマベ真珠は真円に近いですが、色々な形があります。
そして半球体です。
何ともいえない美しい照りがあり、お探しのコレクターの方も多いです。

シードパール(芥子真珠)
アンティークジュエリーで見られる極小の真珠のことです。
アンティークジュエリーでは時には1ミリにも満たないようなシードパールをネックレスなどに用いていました。

フィリグリー金細工アンティークチェーンブレスレット(シードパール)

もちろんアンティークジュエリーで使われているシードパールは全て天然真珠になります。
かつて天然真珠は、剥いた貝の身を桶に集めて炎天下に置き、腐敗してどろどろになった頃を見計らって海水で洗い流し、溜まった真珠を取るといったやり方で採集されていました。
そのため大粒の真珠はもとより、小粒のものも確実に集めることができたのです。

そのようにして採取されたシードパールがヨーロッパに渡り、細工を施されてさまざまなシードパールジュエリーが作られました。
シードパールジュエリーは、19世紀のヨーロッパで黄金期を迎えます。
ケシ真珠に穴を明けて細い糸を通し(真珠が小さいだけにきわめて難易度の高い作業です)、マザーオブパールの台座に縫いつけてネックレスにされたり、ゴールドの線を通してペンダントやブローチにされたりしました。
1つのネックレスを作るのに、時には1000粒以上のシードパールが使われれたこともあります。

真珠の価値としましては昔の天然真珠であってもこれほど小さな真珠は単体では、それほど大きな価値は持ちません。
しかしたくさんの芥子真珠をあしらったものはやはりとても希少で、また真珠の数が増えれば増えるほど膨大な手作業を要します。
その作品に対して高い価値が認められています。

淡水真珠
アンティークジュエリーでも淡水パールを使ったジュエリー(主に1920年代以降のコスチュームジュエリー)は時々見られます。
淡水真珠とは海で採れる真珠ではなく、湖や川で採れる真珠のことです。
天然真珠は人工的ではなく自然に異物が貝に入り込み、そこから時間をかけて真珠層が形成されるため石のほとんどすべてが真珠層でできているのですが、淡水真珠も100パーセント真珠層で作られています。
価格的には海の天然真珠にかないませんが、それでも昔の淡水真珠は真珠層が厚く光沢もよく、現代の淡水真珠と比べ物にならないほど美しいです。
時に海の天然真珠と見分けが困難なほどですが、淡水真珠のほうがフラットな輝きであることが多く、隣において見比べますと分かりやすいです。
コスチュームの淡水真珠のアンティークジュエリーは価値的には真珠そのものにあるというより、その時代を反映したデザインや細工の面白さなどが魅力です。

マザーオブパール
日本語では真珠母貝で、その名の通り真珠を産み出す貝のことです。
現在真珠の母貝として使用されているものは、白蝶貝・黒蝶貝・茶蝶貝・あこや貝・淡水真珠貝・コンク貝等。
マザーオブパールという名前そのものは、複数の貝を指しますが、アンティークジュエリーで出てくるのはほとんどが白蝶貝のマザーオブパールです。
フランスでも古くから重用されて、扇の骨部分やオペラグラス、ジュエリーケースなどに用いられてきました。

マザーオブパールレース製扇

しかしジュエリーに用いられたのはほんの少しです。

マザーオブパール アンティークネックレス(マルカジット 1800年頃)

南洋真珠
オフホワイトやクリーム色以外のブラックパールなどの色の付いた真珠は、1845年頃から出始めます。
この南洋真珠をスターダムに押し上げたのがフランス皇帝ナポレオン3世の妻ウジェニー・ド・モンティジョ(Eugenie de Montijo)です。
特に美しい黒色の南洋真珠は、クロチョウガイ(黒蝶真珠)と呼ばれます。

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クロチョウガイはアコヤガイ、シロチョウガイと同じウグイスガイ科の二枚貝で、赤道を中心とする南北約30度以内の暖かい地域に生息します。
生息最適水温は24-29度ぐらいで、18度では成長がとまり、11-12度になると死んでしまうデリケートな真珠です。
クロチョウガイには多くの変種があり、その仲間はペルシャ湾、西インド洋、沖縄、ミクロネシア、ポリネシア、カリフォルニア湾へ分布しています。

フランスのアンティークジュエリーで度々目にするのが、フランス領ポリネシア地域のクロチョウガイです。
タヒチを中心にするエリアでもあることからよく「タヒチ真珠」とか「南洋真珠」とも呼ばれることがあります。

現在ではタヒチのクロチョウガイも養殖が多くなっており、他の真珠を染色処理し、黒真珠と呼んでいるものもありますので、注意が必要です。
色真珠の養殖は白色の真珠の養殖よりも更に後年になり、アンティークジュエリーで見られる南洋真珠は取り替えられていない限り天然真珠が使われています。
「ブラックパール」と言っても、黒、緑、グレーを帯びたものなどニュアンスはさまざまです。

真珠の保管方法 乾燥に弱い真珠はシルクの布に包んで保管するのが良いです。
伝統的に真珠は、大きなシルクの布で封をして包まれてきました。
なぜならシルクは湿気を奪わないからです。
逆にコットンやウールで包むことはしてはなりません。
コットンやウールは湿気を真珠から奪うので、クラックの原因などになります。

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