珍しいエメラルドのカリブレカット
エメラルドとダイヤモンドのバーブローチ。
1920年頃の典型的なアールデコ期のデザインです。
エメラルドは「カリブレカット」と呼ばれる、20世紀初頭のハイジュエリーにみられる特徴的な宝石カットにされています。
石留めに爪を用いない独特のセッティングのカリブレカットは、1920年代のブルーサファイヤやルビーを用いたアールデコのジュエリーでよく見られる技法ですが、エメラルドでは珍しいです。
鉱物的にコランダムより結晶が脆いエメラルドで、このようなスクエアのカッティングを施すことは困難だからです。
当時このような技術を持っていたジュエラーはカルティエなどの一部のハイジュエラーに限られました。
そうしたこともあるのかこちらのブローチを譲って下さったフランスのディーラーさんは「僕はこのブローチは署名こそないけれど、カルティエ製だと思う」とおっしゃっていました。
残念ながらカルティエの刻印はなく、薄れがかけた工房印も残念ながらカルティエのものではなさそうですが・・・。
当時のハイクラスのジュエリーに押されることの多かったシリアル番号も残っており、ハイクラスの工房の作品であったことは間違いないです。
明度の高い、透明感あるエメラルド
エメラルドは合計19石。
石と石の間に爪や台座などの遮りがなく、隣り合う石同士に隙間のないところがカリブレカットセッティングの魅力です。
カリブレカットのジュエリーには僅かな隙間が出てしまっていつこともありますが、このブローチはやはり技術が素晴らしいのでしょう、エメラルドも隙間なく配列しています。
またエメラルドは透明感があり、かつ明度の高い緑色です。
エメラルドは「欠点のない人はいないのと同じように、 エメラルドの完全無傷の石はない」と言われている通りインクルージョンを多く含む宝石であるため、このように明度が高く透明感のある石は希少です。
全体は18カラットイエローゴールドでダイヤモンドのセッティング表層のみにプラチナが用いられています。
エメラルドのセッティングはイエローゴールド、ダイヤモンドのセッティングのみプラチナと切り替えているのが面白く、こうしたところからも非常に手がかけられた作品であることが分かります。
フランス18金の刻印が2か所、工房印、シリアル番号。
あらゆる刻印も押された力作です。
1920年頃のフランス製。
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カリブレカットとはフランス語でCalibre cut(カリブレカット)。
カリブレカットは20世紀に入ってから登場する石留めの技術で、特にアールデコ期のジュエリーにセットされた宝石に見られるカッティング技法です。
カリブレカットは石を留めるのに爪を使わずに、石の両側の縁をわずかに倒して留めます。
アールデコ期(1920年代)に同じ色の同じ形の連続する石を留める時に用いられた技法で、主にアクセントカラーとなる色石に用いられました。
希代のアールデコのジュエラーは、カリブレカットした宝石を用いた対照色が美しい作品を残しています。
下記はJ.E Coldwellのカリブレカットルビーとダイヤモンド、オニキスのブローチ。
下記は当店で販売済みのカリブレカットルビーに珍しくアクアマリンを合わせたリングで、補色の色の組み合わせが美しいです。
カリブレカットが施された代表的な宝石がブルーサファイアとルビーです。
しかしカルティエなどの一部のグランメゾンはエメラルドのカリブレカットで素晴らしい作品も残しています。
下記はジョルジュ・フーケのエメラルドとカリブレカットサファイヤ、ダイヤモンドのブレスレット(1925年作)。
下記は当店扱いのカリブレカットエメラルドのリング。
宝石を幾何学的な形にカットしスッキリとしたラインを強調することで、アールデコらしいシャープなラインが生まれます。
カリブレカットのメリットは何とっても石と石の間に爪が見えないこと。
小さな石を連続してラインを作る時、宝石がすっきりとして見えるのが魅力です。
その端正なラインは、非常に高い宝飾技術によって支えられています。
シャープでモダンなアールデコのアンティークジュエリーは世界的にとても人気がありますが、カリブレカットが施された宝石が配されたものはとりわけ探されています。
アールデコ期に作られたカリブレカットのジュエリーは指輪がもっとも多いですが、下記のようなネックレスやブローチなどでも見られます。
ちなみにこちらのネックレスのカリブレカットルビーは合成(シンセティック)です。
カリブレカットの色石は多くの色石を要するのと、特にルビーのパーティングと言う特性により、一流のジュエリーにも時々シンセティックルビーやシンセティックサファイヤが用いられたものがあります。
また天然宝石とシンセティックの混ざったものもありますので、そのジュエリーを販売している業者さんが全てきちんと調べているか確認することが大事です。
(ご納得された上でご購入されるのであれば、問題はありません。)
下記はブローチです。
1920年頃、カリブレカットした色石はブローチではこのようなバーブローチにされたケースが多いです。
またアールデコより少し後年の1940年代の高級時計にも時々、カリブレカットのサファイヤやルビーがセットされた宝飾時計が作られました。
カリブレカットした宝石を用いたジュエリーは実にデザインが優れたものが多いです。
長方形、正方形、台形など作り上げたいデザインに応じて、小さく面取りしてカットしてレール状の台座にはめ込んでいく、まるで「宝石のパズルのような技法」ですから、当然ともいえます。
カリブレカットによって、アールデコのジュエラーは思い描いたデザインをより自由に大胆に表現することが出来たのです。
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