永遠に色あせることのないバラ
19世紀末のフランス、アールヌーヴォー様式の作品です。
描かれているのは薔薇(ばら)。
花弁や葉、すべてが金細工で表現されています。
薔薇は左右それぞれ2つ、描かれています。
花びらの重なり合う様子が、ゴールドの造形によって表現されています。
花びらはなだらかな曲線がつけられた薄い金板を巧みに重ね合わせることで作られています。
葉の造形美も素晴らしく、葉の表面には細かい模様と葉脈の様にラインが付けられています。
そして葉は艶消しが施されていて、他の部分よりワントーン明るいグリーンゴールドが用いられています。
金という基本的には硬い素材で、みずみずしい植物の一瞬を捉えていることに驚かされます。
葉っぱが花が下で、茎部分が上になっている構造になっていることに気づかれるでしょう。
通常、葉っぱの上に花がありますが、逆向きになっているのです。
これはもちろん間違いではありません。
この向きの方が花が揺れて美しく垂れる様が伝わるのです。
以前にかなり類似したアールヌーボー期の薔薇のピアスで、やはりこのような向きで描かれたピアスを扱ったことがあります。
パリの宝石店、オリジナルボックス付き
アンティークジュエリーでオリジナルボックスの残ったものは珍しいです。
実は私が懇意にしているディーラーさんで、アンティークジュエリーのボックスも集めてらっしゃる方がいます。
この方のコレクションは業界の中では有名なようで、ロンドンに居を構える世界一のアンティークジュエリーショップの方からも時々「こんなボックスはない?」という問い合わせがくるそうです。
箱の世界も深いです。
「LIGERON」というパリの宝飾店のオリジナルケースがついています。
上部の薔薇が円形の枠の中に、下部の薔薇がトライアングルとひし形を組み合わせたような幾何学的な形の枠の中に描かれています。
その少しアールデコを先取りしたような、シンメトリックなデザインのフレームも魅力的です。
1900年頃のフランス製。
18カラットゴールド。
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花を主体にしたジュエリー
お花をモチーフにしたジュエリーは1820-30年頃から多く作られ始め(それ以前にも見られますが)、19世紀中ごろにその全盛を迎えます。
お花をモチーフにしたジュエリーが当時なぜそれほどまで流行したかというその理由については。
1)純粋にそのデザインが可愛かったこと
2)お花モチーフのジュエリーは身につけやすいジュエリーでもあったこと
3)ヨーロッパの王室貴族の間でガーデニングが同時期に流行したため
と言われています。
この頃にガーデニングに良く使われた花はパンジー、薔薇、フクシア、キク、ダーリア。
これらはつまるところ、アンティークジュエリーの花のモチーフにしばしばされた花です。
ユージェニーとフラワーモチーフのジュエリー
フランスでもこの影響を受け、19世紀後半には多くのお花をモチーフにしたジュエリーが作られます。
特にナポレオンの妻、ユージェニーが特に花をモチーフにしたジュエリーを好みました。
どんなお花がモチーフになったかと言いますと、「薔薇(しあわせな愛)」、そして「忘れな草」。
その他、「エーデルワイス」「ハイビスカス」「プルメリア」「パンジー」「オークの葉と実」「マーガレット(忠実な愛)」「プルメリア」「チューリップ」「ダーリア」「百合(花束で表現されることも多いです)」「すずらん」「アイリス」「デイジー(片思いの愛)」等々。
センチメンタルな忘れな草、フラワーバスケット(花籠)のジュエリーなども比較的よく見られます。
イギリスでは、イングランドのバラ、スコットランドのアザミ、アイルランドのシャムロック(クローバー)が度々、ジュエリーのモチーフにされてきました。
薔薇のアンティークジュエリー
フランスのアンティークジュエリーで薔薇ほど、ジュエリーのモチーフとして愛された花はないでしょう。
特にアールヌーヴォー期には、薔薇の花びらや蕾を細やかな金細工で装飾した、それは美しいゴールドネックレスが次々に作られました。
アールヌーヴォーの薔薇のネックレスは実に様々な金細工が駆使されました。
彫金を中心に仕上げたもの、レポゼで全体の形を作っているもの、フィリグリーが施されたもの等々。
1種類の金細工だけでなく、一つのネックレスに数種類の金細工が用いられているものも多いです。
そのネックレスが取った金細工手法により、一見同じように見えるネックレスの重量もまったく異なるところも面白いです。
金細工の最盛期であったということもあり、バラの花びらの立体感を生き生きと表現した作品が見られます。
下記は薔薇をモチーフにしたアールヌーボー期のロケットペンダント。
薔薇の種類
薔薇には実は2種類あるそうです、オールドローズとモダンローズです。
1867年以前の薔薇をオールドローズと呼ぶそうです。
19世紀末の時代に描かれたバラは、オールドローズだったのでしょうか、モダンローズだったのでしょうか。
かの王妃マリー・アントワネットも薔薇の愛好家であったことはあまりに有名な話ですね。
バラは長いフランスの宝飾史の中で、多くのジュエラーにインスピレーションを与えてきた花です。
アンティークエピソード集のページでは、様々なアンティークに関するエピソードをご覧いただけます。
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