立体造形の秀逸さが素晴らしいブローチ
現代の日本ではブローチを日常的にお使いになる女性は少数派でらっしゃるので(近年フランスではブローチは再び若い女性に人気が出てきています)、私は「これは!」と思ったブローチしか仕入れないことにしています。
しかしこのブローチはあまりの完成度の高さに、皆様にご紹介したいと思って仕入れてきました。
典型的なアールヌーボーのブローチで、バラがモチーフ。
花びらが重なり合う様子がゴールドだけで描かれています。
アールヌーボーの典型的な構図の一つではありますが、狭い面積の中でここまで立体的に作られた金細工はアールヌーボーのジュエリーにおいても滅多に見ることがございません。
薔薇の花がそれぞれ別々の方向を向いているところも面白いです。
薔薇の大きさもグラデーションになっていて先端に行くほど小さくなっていきますが、それでも花びらが小さく5枚重なり合う様が描かれています。
マットなゴールドで立体的に作られています。
薔薇の花と花の間には天然真珠。
状態も良い艶やかな天然真珠は、正面から見ますとほぼ真円に見えるものの、横から見ますとやや扁平であったりマッシュルームを思わせる形をしていたりと、そこがまた天然ならではの面白さがあります。
色もオフホワイトで光沢が素晴らしい、良質な真珠です。
オリジナルケース付き、モノグラムが入っています
そして極めつけはオリジナルケース。
ケースも状態が良く、外側に「MとS」のモノグラムが入れられています。
内側には「E Wernex Lille」とシルクの布地に書かれていおみあす。
Lilleはフランス北部を代表するる町です。
ブローチ自体も非常に良い状態でピンはフックでロックできるようになっていますが、このピンフックの部分がさりげなくデイジー(マーガレット)のモチーフになっています。
薔薇もデイジーも共にアールヌーボーのモチーフとして愛された花で、一つのブローチに二つの花を入れているところも面白いですね。
薔薇は「しあわせな愛」、デイジーの花は「純潔」を象徴します。
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花を主体にしたジュエリー
お花をモチーフにしたジュエリーは1820-30年頃から多く作られ始め(それ以前にも見られますが)、19世紀中ごろにその全盛を迎えます。
お花をモチーフにしたジュエリーが当時なぜそれほどまで流行したかというその理由については。
1)純粋にそのデザインが可愛かったこと
2)お花モチーフのジュエリーは身につけやすいジュエリーでもあったこと
3)ヨーロッパの王室貴族の間でガーデニングが同時期に流行したため
と言われています。
この頃にガーデニングに良く使われた花はパンジー、薔薇、フクシア、キク、ダーリア。
これらはつまるところ、アンティークジュエリーの花のモチーフにしばしばされた花です。
ユージェニーとフラワーモチーフのジュエリー
フランスでもこの影響を受け、19世紀後半には多くのお花をモチーフにしたジュエリーが作られます。
特にナポレオンの妻、ユージェニーが特に花をモチーフにしたジュエリーを好みました。
どんなお花がモチーフになったかと言いますと、「薔薇(しあわせな愛)」、そして「忘れな草」。
その他、「エーデルワイス」「ハイビスカス」「プルメリア」「パンジー」「オークの葉と実」「マーガレット(忠実な愛)」「プルメリア」「チューリップ」「ダーリア」「百合(花束で表現されることも多いです)」「すずらん」「アイリス」「デイジー(片思いの愛)」等々。
センチメンタルな忘れな草、フラワーバスケット(花籠)のジュエリーなども比較的よく見られます。
イギリスでは、イングランドのバラ、スコットランドのアザミ、アイルランドのシャムロック(クローバー)が度々、ジュエリーのモチーフにされてきました。
薔薇のアンティークジュエリー
フランスのアンティークジュエリーで薔薇ほど、ジュエリーのモチーフとして愛された花はないでしょう。
特にアールヌーヴォー期には、薔薇の花びらや蕾を細やかな金細工で装飾した、それは美しいゴールドネックレスが次々に作られました。
アールヌーヴォーの薔薇のネックレスは実に様々な金細工が駆使されました。
彫金を中心に仕上げたもの、レポゼで全体の形を作っているもの、フィリグリーが施されたもの等々。
1種類の金細工だけでなく、一つのネックレスに数種類の金細工が用いられているものも多いです。
そのネックレスが取った金細工手法により、一見同じように見えるネックレスの重量もまったく異なるところも面白いです。
金細工の最盛期であったということもあり、バラの花びらの立体感を生き生きと表現した作品が見られます。
下記は薔薇をモチーフにしたアールヌーボー期のロケットペンダント。
薔薇の種類
薔薇には実は2種類あるそうです、オールドローズとモダンローズです。
1867年以前の薔薇をオールドローズと呼ぶそうです。
19世紀末の時代に描かれたバラは、オールドローズだったのでしょうか、モダンローズだったのでしょうか。
かの王妃マリー・アントワネットも薔薇の愛好家であったことはあまりに有名な話ですね。
バラは長いフランスの宝飾史の中で、多くのジュエラーにインスピレーションを与えてきた花です。
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