螺旋状のモチーフに描かれた希少なヤドリギのモチーフ
19世紀末から1900年頃にかけて作られたフランスのアンティークジュエリーの中でも、アールヌーボーの特色が出たジュエリーは僅かです。
忘れてならないのはアールヌーボーは当時、カウンターカルチャーであったと言う点。
この時代のごく一部の作品だけが「アールヌーボーのジュエリー」なのです。
真円の螺旋の中にヤドリギが描かれています。
「再生」「永遠」のシンボルであるヤドリギはアールヌーボーで好まれた代表的なモチーフの一つです。
しかし実際にヤドリギがモチーフになったジュエリーは決して多くはなく、シェルシュミディでも宿木がモチーフになったアンティークピアスは初めてです。
宿木は中心に向かって窪みがつけられていて、その主脈部分にはくっきりとしたラインが出るよう作られています。
そして宿木の縁、そして螺旋状の縁等、あらゆる縁に、ミルグレイン(縁のギザギザ)が細かく入られています。
光を取り込んで更に輝くピアス
このピアスの作りはとても凝っています。
柔らかな曲線の螺旋や宿木はゴールドを削りだすことで作り出しています。
鋳型でこのような形を作るのではなくゴールドを削り上げて、ここまで細いラインを出すことは珍しいです。
緻密なミルグレインは本来プラチナに向いていて、もしかして少し早いけれど例外的にプラチナが使われているのでは?と思いましたが、検査をして見ましたらやはりホワイトゴールドでした。
全体の枠や留め具はすべてイエローゴールドです。
粒金細工のために至る所にダイヤモンドが埋め込まれているように見えますが、ダイヤモンドが入っているのは留め具へとつながる細長い楕円形のモチーフの中心に左右各1石。
メインモチーフでは左右各5箇所で、中心部分とそこからX字のように伸びた先端4箇所です。
特に一番外側の螺旋の四箇所に描かれたお花の中心には、巧みにゴールドで凹凸がつけられていいて、ダイヤモンドが入っているように見えますがこれは粒金です。
その稀で独創的なアールヌーボーならではの図柄の中で、粒金やダイヤモンドがキラリキラリと煌く様。
手にして見ていても美しいですが、実際に身に着けて揺れて光を取り込むと更に魅力的です。
ダイヤモンドそのものは決して大きくありませんが、ピアス全体が伸びやかな曲線の中で煌く、とても美しいピアスです。
1890-1900年頃のフランス製。
18金ゴールド。
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知られざるアールヌーボーの本質
しなやかな曲線と自然への感性。
日本でも人気の高いアールヌーヴォー様式ですが、その「本質」は意外に知られていません。
アールヌーヴォーは19世紀末(1900年前後)、あらゆる芸術領域を席捲した装飾様式です。
ジュエリーの世界でアールヌーボーは、「貴石をシンメトリーにセッティングした従来のジュエリー作り」から「宝石的価値ではなく色によって選別した石を、美しく彫金されたゴールドにニュアンスカラーのエナメルと共にセットしたジュエリー」への脱皮をもたしました。
アールヌーボーと言うと柔らかな曲線から「ロマンチックな自然主義」と言うイメージが強いことでしょう。
しかしその根底には世紀末ならではの「デカダンス」があります。
溢れんばかりに花をつけた枝や、豊かに広がりうねる長い髪といったアールヌーボーの典型的な図柄の裏には、「自然の残酷さや死」が念頭にありました。
アールヌーボーのジュエラーとパリ万博(1900)
ジュエリー界でもっとも早く「アールヌーボー」の言葉を使い出したのは、ルネ・ラリック(Rene Lalique)。
下記は1902年にイギリスで発行された「Magazine of Art」に掲載されたルネラリックのジュエリーデッサンです。
女性の顔と睡蓮が描かれたペンダントのデッサンですが、この頃はまだルネラリックはロンドンでは広くは知られていませんでした。
1900年のパリ万博では、ルネ・ラリック、メゾン・ヴェヴェール(Maison Vever/ヴェヴェール工房)、ルシアン・ガリヤール(Lucien Gaillard)の3人がジュエリー部門でグランプリを獲得します。
下記は1900年頃に製作された、ルシアン・ガリヤールの青い鳥の髪飾り。
鼈甲とプリカジュールエナメル、目の部分にダイヤモンドが入れられています。
アールヌーボーは東洋の美意識、特に日本の芸術に強い影響を受けましたが、この作品は私たち日本人が見ても、日本的な美しさを感じる作品ですね。
この万博では、ジョルジュ・フーケ(Georges Fouquet)とウジェーヌ・フィアートル(Eugene Feuillatre)が金賞を受賞しました。
ジョルジュ・フーケは1898年にランの花をモチーフにしたジュエリーでアールヌーボーの作品を初めて手がけます。
そしてポスターアーティストのアルフォンス・ミュシャと一緒に、いくつものプレートをチェーンでつなげたジュエリーを発表します。
下記は1900年にアルフォンス・ミュシャがデザインした、宝石商ジョルジュ・フーケの店舗です。
ステンドグラスやモザイクタイルの装飾等、ミュシャがポスターの中で描いたアールヌーボーのテーマや曲線が再現されています。
今日、このインテリアショップの内装は、パリのカーナヴァル美術館で見ることが出来ます。
また同年代のジュエラーの中でルネラリックと並び賞賛を浴びていたのが、ベルギーのジュエラーであるフィリップ・ウォルファー(Philippe Wolfers)です。
アールヌーボージュエリーに関して更に詳しい情報は、アールヌーボー(アールヌーヴォー)のアンティークジュエリーの特徴と魅力をご参照ください。
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