星の彫りが入ったピアス、大きめサイズです
19世紀後期のフランス製。
先日も星の彫りの入ったジェットピアスをご紹介いたしましたが(売却済み)、こちらはもう一回り大きなサイズになります。
マットな漆黒のジェットに、星の形で彫りが入ったピアス。
直径が1.1センチと、前回ご紹介いたしましたピアスの倍近くあります。
フランスのジェットのピアスは小ぶりなものが多いので、例外的な大きさです。
6つの星が外周に円形状にぐるりと彫られ、その真ん中に最後の星が描かれています。
それぞれの星の彫り方もよく見ると一様ではありません。
職人さんが手作りで一つずつ彫っていった当時ならではの醍醐味です。
ジェットはジュエリーとして使用できるのに十分な硬さはありますが、それでもダイヤモンドなどの超硬質な宝石に比べれば比較的柔らかい宝石です。
「彫り」は柔らかいから易しいかといえばそうでもなく、それぞれに難しさがあります。
星は2015年のラッキーモチーフ?
先日読んでいた雑誌にたまたま書いてあったのですが、星は2015年のラッキーモチーフのひとつだそうです。
アンティークジュエリーの世界でもたびたびモチーフになってきた星、愛らしく縁起もよい星は古今東西多くの女性に愛されてきたのですね。
星モチーフのジュエリーは甘すぎることなく少しマニッシュな雰囲気もあり、男女問わず高感度の高い柄です。
黒色のジェットで大人しくなりそうなところを、星の彫りが入ることで明るく愛らしい雰囲気が増します。
地金は18金ゴールドで、色合い的にも程よく明るさがプラスされ、ともすれば暗くなりがちなジェットのジュエリーが垢抜けたものになっています。
前から後ろに針を通すタイプのピアスです。
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ジェットとは古代の松や柏が化石化して生まれた漆黒の黒玉のことです。
艶があり、比較的柔らかいため細工がしやすく、また美しい光沢があります。
「ジェットは光らない」と思われている方もいらっしゃいますが、それは処理方法によります。
ジェットはそのままの状態ではマットで、磨くことでその部分が艶を帯びます。
ジェットというと、「ヴィクトリアジェット」を想像される方も多いでしょう。
ジェットを一大ブームにしたのは、イギリスのヴィクトリア女王です。
しかしジェットはとても古い宝石で、その歴史は石器時代まで遡ります。
ドイツやスイスの遺跡から、何とジェットが紀元前1万年から装飾品として使用されていたことが判明しています。
また古代ローマ時代も、ローマ王国統治下のイギリスで、ジェットは先住民族であるケルト人からローマ人へと伝えられ、「黒い琥珀」と呼ばれ、珍重されました。
ジェットは、まさに真珠と並び人類が最も古くから愛した宝石なのです。
現存するアンティークジュエリーのジェットは石そのものは昔、イギリスで採れました。
その多くがウィットビーと呼ばれるイギリスの街で採掘されました。
そのため時々「ウィットビージェット」と呼ばれます。
ウィットビーはイングランド北東部、イギリスの北海沿岸の町で、この地でのジェットジュエリー製作の最盛期は1870年代です。
19世紀後半にイギリスエリザベス女王がモーニングジュエリー(喪のジュエリー)として愛用したことで、ヨーロッパ中にブームが起こります。
モーニングジュエリー(Mourning Jewellery)とは、死者を悼む気持ちを、それに適したデザインあるいは素材を用いることで表現したジュエリーのことです。
下記は当時の喪の装いのデッサンです。
この時代、夫の死後1年は全身を黒いドレスを着用し(フルモーニング)それに少なくとも続く9ヶ月間ハーフモーニングの装いをするのが慣わしでした。
喪の期間のジュエリー(モーニングジュエリー)として認められた数少ない素材の一つが、漆黒のジェットでした。
また当時は、故人の髪の毛をとっておくというのも愛情の証であるとみなされていたため、髪の毛を材料にしたアンティークジュエリーも存在します。
「ジェットのアンティークジュエリー=イギリス」のものというイメージを持たれている方も多いようです。
しかし当時ももちろん国境を越えて、ウィットビーのジェットは大陸ヨーロッパ、イギリスの植民地、そしてアメリカにまで流通しました。
当時の文献「Whitby Times」にも記載があるように、ウィットビーでのジェットジュエリーの製作は、技術は高度であったものの、芸術的センスはイマイチであったと言う指摘があります。
そのためウィットビーの職人たちにデザインのレッスンがなされましたが、そのデザインはシンプルなものに留まっていたといいます。
よく作られたモチーフは、葡萄の木、シダの葉、百合、そして十字架などのキリスト関係のモチーフでした。
下記は1875年頃のイギリスで作られたジェットのネックレスで、現在ヴィクトリアアルバート美術館所蔵。
当時の典型的な良質なモーニングジュエリーです。
重厚で装飾性が少なく、よりモーニングジュエリーの要素が強いことが感じられるでしょう。
(c) Victoria & Albert Museum, London
ジェットはフランスにも輸出され、イギリスのように「モーニングジュエリー」として作られたものではなく、よりファッション性も兼ねたものが作られました。
1860年頃から、ジェットを鋳型に流し込み、手作業でそこに彫りを入れたものが作りはじめました。
下記は19世紀後期のフランスで製作されたジェットのピアス。
鋳型で成型したジェットに手作業で彫りが入れられています。
ジェットに関しては、紛らわしいことに「フレンチジェット」という呼称があります。
フレンチジェットとは、ジェットに似た黒いガラス石を指します。
下記のネックレスはジェットに似ていますが、フレンチジェット(黒ガラス)です。
ジェットとは異なります。
ということで「フランスアンティークでジェットと呼んでいるものは、全て黒ガラス」と思い込んでしまう方もいるようですが、これは違います。
そもそも「フレンチジェット」という名称は、イギリス人が当時の黒ガラス石につけたネーミングです。
日本ではそのままこの英語が使われて、誤解を生んでいるようです。
フランスではジェットのことは「ジェット」、フレンチジェットと呼ばれるガラス石のことは単に「黒ガラス」と呼んでいます。
ジェットを忍ばせてくれる映画のひとつに30年代の名作「風と共に去りぬ」があります。
未亡人となったスカーレット・オハラ扮するヴィヴィアンリーが身に付けていたあの大きな黒い胸飾り。
あれはジェットだとお気づきでしたか?
近年、中国産の現代もののジェットが出てきているようです。
しかもとてもお安く、アンティークのジェットに慣れていると「えっ」と思う価格帯なのです。
これは本物のジェットなのかと言われれば、確かに偽物ではありません。
しかし19世紀にイギリスで採れたジェット(主にウィットビー産)と同様のクオリティーがあるかと言えば、やはり産地も違いますし、質は異なります。
ジェットとは古代の松や柏が非常に長い年月をかけて化石化して生まれた漆黒の黒玉です。
ですのでその化石化したものを現在見つければ、理論的には現在でも採掘は可能です。
ただどの宝石に関しても言えることですが、良質なものは、量に限りがありますから既に採掘されつくしており、質の良いものはやはりアンティークジュエリーにしかないのです。
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