ドイツのアールヌーボー、ユーゲントシュティール
当店では珍しいドイツのアンティークジュエリーです。
アンティークジュエリーでまず思い浮かべるのがイギリス、フランスで、ドイツのイメージはあまりないかもしれないですね。
実際私も過去に何度かドイツへ行った際に、現地のアンティークのマーケットなどを一通り見てきましたがめぼしいものは皆無でした。
しかしもちろん何事にも例外は存在し、その一つがユーゲント・シュティールです。
エピソード欄にも記載させていただきましたように、ドイツ及びドイツ語圏ではこの時代に秀逸なジュエラーさんが生まれています。
柔らかい曲線美を特徴とする一方で、より直線平面を強調したデザインを得意としました。
モチーフはこの時代、ドイツでも「花と葉」が好まれました。
ドイツらしい緻密なセッティングは、耽美的な美しさのみならず力強さが感じられます。
メインモチーフ部分は3つに分かれています。
ダイヤモンドもシンメトリーに規則正しく(この部分でもフレンチアールヌーボーと異なります)正確なラインで並びます。
中心部分はアーチ状でなだらかな曲線を描いているようで、ダイヤモンドの左右の銀の爪がまっすぐ規則的に並ぶ様など、やはりジャーマンらしい緻密さです。
高価な素材を惜しみなく使っているのも印象的で、合計45石のダイヤモンドは全てローズカットにされ、あえて目立たぬよう銀の台座に深く埋め込まれています。
中心の赤石はルビー。
黒を背景にした写真ですと少し暗く映ってしまいましたが、実際はピンクを帯びたきれいな石です。
ルビーの台座はゴールド。
特に中心部分の爪部分の装飾はルネサンスの優美さを想像させます。(実際、アールヌーボーはルネサンス芸術に強い影響を受けていました)。
優美さと職人性質が入り混じったような、同年代のイギリスやフランスのアンティークジュエリーでも見られない独特な世界観を持つジュエリーです。
モチーフはハナミズキ
モチーフは様式化されているので分りずらいですが、ハナミズキです。
アールヌーボーの頃にやはり好まれて描かれた花です。
花言葉は「返礼」と「私の思いを受け取ってください」。
ルビーの周りが花部分で、それ以外が葉を描いています。
そしてこのバングルを買い付ける決め手になったのは、「裏面」です。
宝石のついたモチーフ全体をゴールドの枠で張り合わせ、そこに固い線と柔らかな線が展開しています。
私自身も、そしてこのバングルを売ってくださった現地のディーラーさん(ロンドンベースでやはり経験の豊かなとても信頼できる方です)も「こんな裏面は見たことがない」と唸っておりました。
銀とゴールドを切り替えはそもそもぴったり張り合わせることが普通なのですが、1ミリ程の隙間が開けられています。
そして貼り絵のように、小さなダイヤモンドの窓でさえぴったり重なっています。
これはどうやって製作したのでしょう。
ここまで厚みが背面にこれだけ広範囲に及んで緻密なオープンワークになっているのも、見たことがありません。
ミリ単位の誤差もない正確で完璧な左右対称のデザインですが、両端はバングルの曲線にあわせて、なだらかなカーブを描いています。
これだけのジュエリーですので、作家ものである可能性が高いですが、残念なことにサインは入っていません。
ルビーもダイヤモンドも見事ですが、ジュエリー作りの面で圧倒的に訴えてくるところがある作品です。
バングルの内寸は約16センチでサイズ直し不可です。
手首がそれほど大きすぎないところも良いです。
1890-1900年頃のドイツ製。
銀とイエローゴールド。
小さな写真をクリックすると大きな写真が切り替わります。
知られざるアールヌーボーの本質
しなやかな曲線と自然への感性。
日本でも人気の高いアールヌーヴォー様式ですが、その「本質」は意外に知られていません。
アールヌーヴォーは19世紀末(1900年前後)、あらゆる芸術領域を席捲した装飾様式です。
ジュエリーの世界でアールヌーボーは、「貴石をシンメトリーにセッティングした従来のジュエリー作り」から「宝石的価値ではなく色によって選別した石を、美しく彫金されたゴールドにニュアンスカラーのエナメルと共にセットしたジュエリー」への脱皮をもたしました。
アールヌーボーと言うと柔らかな曲線から「ロマンチックな自然主義」と言うイメージが強いことでしょう。
しかしその根底には世紀末ならではの「デカダンス」があります。
溢れんばかりに花をつけた枝や、豊かに広がりうねる長い髪といったアールヌーボーの典型的な図柄の裏には、「自然の残酷さや死」が念頭にありました。
アールヌーボーのジュエラーとパリ万博(1900)
ジュエリー界でもっとも早く「アールヌーボー」の言葉を使い出したのは、ルネ・ラリック(Rene Lalique)。
下記は1902年にイギリスで発行された「Magazine of Art」に掲載されたルネラリックのジュエリーデッサンです。
女性の顔と睡蓮が描かれたペンダントのデッサンですが、この頃はまだルネラリックはロンドンでは広くは知られていませんでした。
1900年のパリ万博では、ルネ・ラリック、メゾン・ヴェヴェール(Maison Vever/ヴェヴェール工房)、ルシアン・ガリヤール(Lucien Gaillard)の3人がジュエリー部門でグランプリを獲得します。
下記は1900年頃に製作された、ルシアン・ガリヤールの青い鳥の髪飾り。
鼈甲とプリカジュールエナメル、目の部分にダイヤモンドが入れられています。
アールヌーボーは東洋の美意識、特に日本の芸術に強い影響を受けましたが、この作品は私たち日本人が見ても、日本的な美しさを感じる作品ですね。
この万博では、ジョルジュ・フーケ(Georges Fouquet)とウジェーヌ・フィアートル(Eugene Feuillatre)が金賞を受賞しました。
ジョルジュ・フーケは1898年にランの花をモチーフにしたジュエリーでアールヌーボーの作品を初めて手がけます。
そしてポスターアーティストのアルフォンス・ミュシャと一緒に、いくつものプレートをチェーンでつなげたジュエリーを発表します。
下記は1900年にアルフォンス・ミュシャがデザインした、宝石商ジョルジュ・フーケの店舗です。
ステンドグラスやモザイクタイルの装飾等、ミュシャがポスターの中で描いたアールヌーボーのテーマや曲線が再現されています。
今日、このインテリアショップの内装は、パリのカーナヴァル美術館で見ることが出来ます。
また同年代のジュエラーの中でルネラリックと並び賞賛を浴びていたのが、ベルギーのジュエラーであるフィリップ・ウォルファー(Philippe Wolfers)です。
アールヌーボージュエリーに関して更に詳しい情報は、アールヌーボー(アールヌーヴォー)のアンティークジュエリーの特徴と魅力をご参照ください。
アンティークエピソード集のページでは、様々なアンティークに関するエピソードをご覧いただけます。
アンティークリング、アンティークネックレス、アンティークピアス、アンティークブレスレット等、希少なヨーロッパのアンティークジュエリーを随時100点以上揃えています。
シェルシュミディで取り扱うアンティークジュエリーは、全てオーナーが直接フランス、イギリスを主としたヨーロッパで買い付けてきたものです。