バゲットカットのブルーサファイヤ
アールデコのジュエリーにおいて、ブルーサファイヤは最も好まれたカラーストーンの一つです。
ダイヤモンドとの対比で用いられることが多かった宝石ですが、こちらの指輪は例外的に、宝石としてはブルーサファイヤのみが使われています。
「原色による色の対比」はダイヤモンドとではなく、プラチナとのコントラストになっています。
ブルーサファイヤは19世紀までのカッティングとは異なり、バゲットカットにされています。
バゲットカットとはステップカット(宝石の外周が四角形に型どられており、ファセットが側面のガードルに対して平行に削られているもの)の一種で、幾何学図形をモチーフにしたジュエリーが作られたアールデコの時代に人気を誇っていたカッティングの一つです。
色鮮やかで透明度の高い目の覚めるような青色の3石のサファイヤは、よく見るとそれぞれの色が微妙に異なるところも味わいです。
天然無加工のブルーサファイヤ(ブルーサファイヤの人口処理が本格化するのは戦後、特に1970年代からです)ならではの色合いで、特に左右の僅かにエメラルドグリーンを帯びた色は滅多に見ることの出来ない絶妙な色です。
試着時の写真が自然光での色合いに最も近く、左右の石がやや淡い僅かにエメラルドグリーンを帯びた青、中心のブルーサファイヤが群青色の最も美しいブルーサファイヤの色です。
バゲットカットにされたブルーサファイヤは、アンティークジュエリーでも1920-30年代のジュエリーにしか見ることがありません。
しかも脇石としてではなく、これだけの色と大きさのバゲットカットブルーサファイヤは私も初めて見ます。
布を真っ直ぐ織った時のラインを思い浮かべてみてください
地金はすべてプラチナで、手にすると高級なジュエリー特有の心地よい重量感があります。
実際この指輪は通常の指輪の二倍ほどの重量があり、たっぷり使われています。
「地金がたっぷり使われている=ぼてっとしている」と思うところですが、土台などこまでも滑らかです。
宝石の周りなどは柔らかく宝石は包み込むようにくセットされています。
ぱっと見たときはアールデコらしい直線を感じるデザインですが、細かく見て行きますと、指輪のどの部分も自然なアールを描いているのが分ります。
ミニマムなストリームラインが魅力的な作品ですが、「直線的なライン」はただ真っ直ぐにすれば良いという訳ではないのです。
この指輪の直線は、布を真っ直ぐ織った時のラインの美しさに似ています。
まっすぐだけれど、尖っているのではない。
指に収めた時の心地の良さをも叶える「直線」です。
内側に製造番号が入っています。
そして外側にプラチナの刻印及び、工房印のようなものがあるのですが残念ですが磨耗もあり読みきれません。
これだけ技術の高い作品ですからメゾン製作の可能性もあります。
またアンティークリングとしては珍しく、男性にもお薦めできるリングです。
宝石もブルーサファイヤだけで、でっぱりがないので毎日かっこよく着けていただけます。
9番目のお写真は男性の指にはめた様子を映しています。
指輪そのものも大きさがありますので、少しサイズアップしてもバランスが取れます。
指輪サイズは16号(有料でサイズ直し可)。
小さな写真をクリックすると大きな写真が切り替わります。
1930年、著名なデザイナーであったポール・イリブ(Paul Iribe)はアールデコのジュエリーについて以下のように述べています。
「キュービズムとマシンデザインのために、花を犠牲にしている」。
アールデコ期にも以前として花や葉っぱなどの自然主義のモチーフのジュエリーも存続しつづけますが、「抽象的なジェオメトリックなデザインの台頭」なしにこの時代の動きは語れません。
下記は1927年、Lacloche Freres(当時美しいアールデコのジュエリーを多く生み出したスペインのメゾン) によるサイプレスの枝を描いたピンです。
同じく葉や枝をモチーフにしたジュエリーでも、19世紀のものとは一線を画したジュエリーであることが一目瞭然です。
アールデコを生み出した社会要因
ではなぜそのようなラディカルな変化がデザインの世界に起きたのでしょう?
パリで「アールデコ」という新しい芸術が発祥した理由は、まずなんと言っても第一次世界大戦によって古い価値観が崩れ、女性の社会進出をはじめとした社会革新が起きたことです。
社交界で豪華なジュエリーを付けるのは前世紀から変わりませんが、当時の富裕な女性たちは、デザインの面で大きく変化したジュエリーを好むようになります。
化粧をしたりタバコもすったモダンな富裕な女性たちのライフスタイルの変化が、ジュエリーのデザインにも変化をもたらします。
彼女たちの求めた洋服やジュエリーは、第一次大戦前までの貴族社会の中で続いてきたものとは全く違うクリエイションによってもたらされています。
ドレスデザイナーたちは第一次世界大戦後のこの時代によりシンプルなラインのドレスを作り始めました。
下記は当時活躍したファッションイラストレーターGeorges Lepapeのデッサンです。
当時の女性のイメージが掴めるでしょうか?
加えて時の経済・金融事情も新しい装飾芸術を後押しした要因のひとつでした。
1914年以前のフランスは安定した金利に支えられた安定経済だったのに対し、20年代は毎日のようにフランの価値が下がっていく激動の時代でした。
超インフレが起こり、毎日のように通貨の価値が落ちて生きます。
1919年時に5.45フランだったアメリカドルは、1926年7月にはなんと50フランに!
このような状況のもと、人々は自分の財産を換金性の高いものへ、つまり絵画・宝石・芸術品に投資していきます。
こうしてアールヌーヴォーが陰りを見せはじめた1900年ころから冷え込んでいた宝飾業界に再びお金が流れ、活気が戻り始めるのです。
アールデコジュエリーに関して更に詳しい情報は、アールデコジュエリー その特徴と魅力をご参考ください。
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