宮廷文化の残り香を感じさせるダイヤモンドジュエリー
1820-30年頃のフランス製。
見つけたときに思わず悲鳴を上げました。
フランスアンティークジュエリーの極みにあるダイヤモンドジュエリー。
花が「単体」で色々な角度から堪能できるアンティークジュエリーは少なくありませんが、このように集団として美しい花が咲く様を描いたジュエリーは稀で、トレンブランのアンティークジュエリーぐらいしか思いつきません。
トレンブランは通常ブローチにされて、中心部分がコイル状のスプリングで1-2つのお花が揺れるようになっているのですが、このダイヤモンドジュエリーはペンダントにされていて下部のドロップラインが揺れるようになっています。
なぜ通常のようなトレンブランにされなかったのかその理由は、後ろを見ていて気づきました。
小さな通し穴のようなものがあるのです、しかしこれはブローチに使う穴ではありません。
もともと大きな胸飾りとして作られたものだと考えられます。
この時代はデコルテの開いたドレスを着ていましたから、そこに大きく縫い付けて飾っていたのでしょう。
ブローチでないが故に、通常のようなスプリングで揺れるトレンブランのブローチにせず、ドロップラインで優雅に揺れるようにしたのです。
このような古の宮廷文化の残り香を感じる作品は、アンティークジュエリーでも滅多に見ないものです。
咲き乱れる花を枝ごと、その部分だけ切り取ってきたような構図です
モチーフはワイルドローズです。
まるで庭から咲き乱れる花を枝ごと、その部分だけ切り取ってきたような構図です。
絵画でも描ききれない立体感をジュエリーで表現しようと思ったのでしょうか。
時代を経て渋さの魅力を感じる銀の台に、輝きを放つダイヤモンドの花びら。
花は段違いに高低差をつけられ、1つの花の裏にもう1つの花が見え隠れする様は、複数の花が展開するこうした構造のダイヤモンドジュエリーならではの醍醐味です。
数えるのが難儀なほどダイヤモンドが至るところに隠されています。
ローズカットダイヤモンドが47石。
この時代らしいローズカットダイヤモンドでありながら、強い輝きを放っています。
なぜだろうとよく見てみますと、各ダイヤモンドが随分厚みがあることに気づきました。
大粒のダイヤモンドは直径5ミリ程とそもそも大粒なのですが、それが銀の台座上に盛り上がるように、大きな膨らみを持ってセットされています。
また稀に見るとても古い時代の大作でありながら、着けてみると案外着けやすいことに驚きます。
通常のトレンブランブローチに比べて横幅が控えめで縦幅が大きめなところ、またアンシメトリーなデザインにより遊びが加わっているため、意外なほど自然に胸元にしっくり馴染むのです。
古い時代の壮大なジュエリーでありながら、複数の幸運な要因で日常の中でもお使いいただきやすいアンティークジュエリーです。
地金は銀で、チェーン部分が18金です。
チェーンは後年になって付けられたもののようですが、やはり古い時代のものです。
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トレンブランとはフランス語で「揺れる(tremblant)」と言う意味です。
元々はダイヤモンドの花びらの後ろに付いているスプリングで、エレガントに揺れるジュエリーのことを指します。
スプリングで動くものだけでなく、花の部分の留め金をバネでつくることによって動く仕組みのものもあります。
一般的には19世紀のフランスで作られた「ダイヤモンドx銀」のジュエリーを指しますが、その他の宝石で作られたものやエナメルなどが用いられたものもあります。
また一般的には花の部分が動くものが多いですが、葉っぱの部分が動くものなどバリエーションがあります。
いずれにしてもトレンブランのアンティークジュエリーは極めて数が少ないです。
最初に流行したのは19世紀初頭(1800年頃)、そして新大陸でダイヤモンドが発見された1880年頃に再びリバイバルします。
特に19世紀初頭のトレンブランのジュエリーは、もはやカタログなどでしか見かけなくなったと思うほど出てきません。
下記は当店扱いではありませんが1880年頃のリバイバルとして作られたダイヤモンドトレンブランの典型的な例です。
アンティークジュエリーの中でも非常に希少なジュエリーですので、トレンブランのジュエリーを手にされたいと思ってらっしゃる方は、出てきた時に必ずご入手されることをお薦めいたします!
トレンブランは大抵の場合は横長のブローチにされていますが、下記にこの胸飾りとよく似た作品を見つけました。
こちらは同時代のロシアの作品(1780-1820年)で、元々はロシアの皇族の家族の持ち物であった作品とのこと。
こちらによく似たやはりサンクトペテルブルクで作られた作品は現在、エルミタージュ美術館に所蔵されています。
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