--- アンティークジュエリーについて ---イギリスアンティークジュエリー

イギリスのアンティークジュエリーで、市場で流通してるのは下記の時代のジュエリーが主になります。

1:ジョージアン(ジョージ王朝時代のジュエリー)

2:ヴィクトリアン(ヴィクトリア王朝時代のジュエリー)

3:エドワーディアン(エドワード王朝時代のジュエリー)
1890年から1920年頃まで(エドワードの在位は1902年から1910年まで)。

ジョージアン ジョージ王朝時代のジュエリー ジョージアン時代は1714-1837年の4人のジョージと言う名前の王の治世期間のことを言います。

流行したジュエリー
アイテムとしてはショートネックレス、リヴィエールネックレス、ロングチェーン、カメオをチェーンに垂らしてネックレスにしたもの、時計チェーン、レースピン(レースブローチ)等が好まれました。
リヴィエールとは、同じような大きさと形の宝石を一つのライン上に連ねた指輪やネックレスのことです。

下記はジョージ王朝時代後期のブレスレットです。
金細工技術が最も発達したのがこの時代、ハンドメイドのゴールドのメッシュが素晴らしいです。

ジョージアン 伸縮するゴールドブレスレット(イギリス)

ゴールドが史上最も高く、それゆえに少ない量のゴールドで見映えのする作品を作る必要性が彫金技術が発達。
優れた彫金、金細工はこの時代のジュエリーの醍醐味です。

ジョージアン金細工ゴールドピアス(1820-1830 15カラットゴールド)

「金の刺繍」と呼ばれるカンティーユ細工もこの時代に発達します。
またピンクトパーズはイギリスでもフランスでもこの時代に人気を博した宝石です。

ジョージアン ピンクトパーズペンダント(カラーゴールド カンティーユ細工)

宝飾技術の進化
ジョージアン初期の頃は特にダイヤモンドが好まれ新しいカッティングも研究されます。
この時代にローズカットやテーブルカットが生まれます。
やがてガーネット、トパーズ、エメラルド、ルビー、アメジスト、サファイヤなどの色石も流行します。
下記はジョージアン王朝時代後期のダイヤモンド指輪。
ダイヤモンドはローズカットにされています。

ローズカットダイヤモンドリング(レイトジョージアン 1830年頃)

宝石のセッティングはジョージアンの時代はクローズドセッティングでフォイルバッグになったものが多いという人もいますが、これは特にジョージアン前半に見られます。
19世紀に入ってから(ジョージアン後期)はクローズドにされていないものも多くなります。
ジュエリーメイキングの部分的な機械化は19世紀後半に始まりますので、この時代はすべてが完全にハンドメイドで、ジュエリーの需要に供給が追いついていませんでした。

金位としては15ctゴールドは公式には1854-1932年の間に用いられた金位とされていますがもっと古い時代から実用され、実際にはジョージアンの時代のジュエリー大半が15カラットゴールドで作られています。

デイジュエリーとナイトジュエリー
日中用のジュエリーには、真珠や珊瑚、アンバー、琥珀などの自然素材も好まれ、アンバーや琥珀などは特にカメオやインタリオに使われました。
ナイトジュエリーは一転して、ローズカットダイヤモンドやオールドマインカットダイヤモンドが好まれました。

センチメンタルジュエリーの始まり
その他、1800年前後頃はセンチメタルジュエリーが作られ始めます。
アイボリーに葬儀の様子を彫ったり、愛する人の髪の毛を入れたロケットペンダント。
愛した人の自画像をミニアチュアに描いたペンダントやブローチ、愛した人の目だけを描いた肖像画をジュエリーなどが製作されます。#
センチメンタルジュエリーについては別途、詳しく記しましたのでご参考ください。

センチメンタルジュエリー ラヴジュエリー ハートモチーフジュエリー

ヴィクトリアン ヴィクトリア時代のジュエリー 「ヴィクトリアスタイル、ヴィクトリア時代等々」アンティークジュエリーがお好きな方なら、一度は耳にしたことがあるでしょう。
「ヴィクトリアンアンティークジュエリー」とは、19世紀イギリスヴィクトリア女王の在位の間に作られたジュエリーのことです。
ヴィクトリア女王の在位は1837年から1901年、実に60年以上になります。
イギリス史においても郡を抜いた御世の長さで、英国初の女帝でもあります。

18歳にて即位、母方の従弟に当たるザクセン=コーブルク=ゴータ公子アルバートと結婚。
ヴィクトリア女王は、英国の最も輝かしい時代の女王で、その治世は「ヴィクトリア朝(1837-1901年)」と呼ばれます。
夫、アルバート公との愛も伝説として残っています。
この時代イギリスは世界各地を植民地化して、一大植民地帝国を築きあげます。

その治世の長さから19世紀ヨーロッパの王族貴族に絶対的な影響力を及ぼし、アンティークジュエリーにおいてもヴィクトリア朝、ヴィクトリアスタイルのジュエリーは他の時代のジュエリーに群を抜いて多いです。
この時代に作られたジュエリーをヴィクトリアンジュエリーと呼ばれます。

ヴィクトリア時代(1837-1901年)には多くのジュエリーが作られました。
「ヴィクトリアンジュエリー」は一言で言うには長いので、下記のように3つの時代に区切ることも多いです。

1)ロマンティック時代(1837-1860)
若かりしヴィクトリア女王の若さがジュエリーにも反映された時代。
文化的に中世を懐古する動きがあり、この頃のジュエリーのデザインはルネサンス及び中世の影響を受けたものが多く見られます。
ルネサンス回顧は1829年頃から始まります。
特にルネサンスからインスパイアされた「フェロニエール」と呼ばれる、リボンで額につけるジュエリーが一世を風靡します。
下記は当店扱いのヴィクトリア時代初期のエメラルドの指輪。
手の凝ったロマンチックなショルダーなど、中世を回顧しようなクラシックな装飾様式が見られます。

アーリーヴィクトリアン エメラルド指輪(ダイヤモンド 15ctゴールド)

モチーフとしては何と言っても自然界のものが多く、フラワーブーケット、枝、葉っぱ、葡萄、ベリーをモチーフにしたジュエリーが作られます。
この時代のジュエリーのことをジュエリー用語で「ナチュラリズム(自然主義)」と呼ぶことがあります。
ナチュラリズムについては別途、詳しく記しましたのでご参考ください。

自然主義(ナチュラリズム)のアンティークジュエリー 

またお花とそのシンボルをジュエリーに取り入れたり、蛇のモチーフのジュエリーがその全盛期を迎えます。
フランスが、この時代にアルジェリアを植民地にしたことから、タッセルや結び紐、花綱模様に代表されるアッシリアスタイルがジュエリーの世界にも入り始め、特に蓮華模様は以降40年間隆盛します。
下記のペンダントにもアーリーヴィクトリアンの特徴が良く出ています。

ルビーとダイヤモンドンペンダントトップ(15カラットゴールド ヴィクトリア朝初期)

2)グランピリオド時代(1860-1885)
この時代、一部の女性たちが教師や工場官の仕事に台頭し、選挙権を得るために戦い、1870年の法律改正で自らの稼ぎを自分のものにすることが初めて認められました。
女性のファッションは大きく変化し、デコルテの開いた服と斜め後ろに髪を束ねることが流行します。
ジュエリーの世界では1860年頃より1880年代の終わりまで、知的階層を中心に古代ジュエリーのリバイバルに沸きます。
この時代のジュエリーのを「アーケオロジカルスタイル(古代様式)」と呼びます。

これは1870年頃までに考古学上の発見が相次ぎ、古代ジュエリーの詳細が初めて明らかにになったためです。
そして多くのジュエラーが、古代ジュエリーを模したジュエリー、時には完全にコピーをしたものを製作します。
現代ではいわゆるこのようなレプリカ(完全な模倣)は良いことではないとみなされますが、当時は古代ジュエリーのレベルがあまりに高かったため、古代ジュエリーを模すことはクリエイティブな作業であると考えられていました。

「古代様式」のジュエリーで名をはせたのはカステラーニとジュリアーノです。
下記はヴィクトリアアルバート美術館所蔵、カルロ・ジュリアーノの1865年頃製作のアケオロス(ギリシャ神話の神の一人)のネックレスです。

ジュリアーノ
(c) Victoria & Albert Museum, London

ジュリアーノは、エジプトのシンボル、スカルベをジュエリーモチーフに取り入れ、ギリシアやエトルリアのリバイバルも起こり、グラニュレーションなど古代の宝飾技術が研究します。
カステラーニとジュリアーノについては、より詳しく記したエピソードがございますのでご参照ください。

カルロ・ジュリアーノ(Carlo Giuliano)一族とカステラーニ(Castellani)のアンティークジュエリー

その他、この時代にピケ、ロッククリスタルで作られたリバースインタリオ、スティックピンかカフスボタンが流行します。
モチーフで言うと、お花やモノグラムの他、昆虫や蝶、蜂、蜘蛛なども出現しはじめます。

モーニングジュエリー(喪のジュエリー)が生み出されるのもこの時代です。
ヴィクトリア女王が42歳の時に夫アルバートを亡くします。
女王は悲嘆し、常に喪服を着用するようになり、数年に渡り公の場に姿を現さなくなります。
その中から生まれたのがジェットを使ったモーニングジュエリーです。

モーニングジュエリー

ジェットのジュエリーについては、別エピソードで詳細をまとめておりますのでぜひご参考ください。

アンティークジェットとモーニングジュエリーについて

3)耽美主義時代 Aesthetic period(1886-1900年頃まで)
ヴィクトリア時代の末期。
グランピリオド期の大ぶりで格式ばったジュエリーへの反動が起こります。
厳格なしきたりや格式ばったジュエリーは影を潜め、ジュエリーに明るさや軽さが戻ってきます。
下記はヴィクトリアンの最後の時代に作られたダイヤモンドリング。
色鮮やかな明るい指輪です。

ヴィクトリア王朝時代後期クラスターリング ダイヤモンド(1900年イギリス、ヴィクトリアン)

ヴィクトリア女王と夫アルバートの名を冠した美術館がロンドンにはあります。
ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館(Victoria & Albert)です。

近年、ヴィクトリア&アルバート美術館内に宝石をテーマにした新しいギャラリーがオープンしました。
The William and Judith Bolinger Jewellery Gallery」と呼ばれるこのギャラリー。
展示されるのは18-19世紀から20世紀前半にかけてのヨーロッパのアンティークジュエリーを中心とする宝飾品計3500点あまり。
イギリスエリザベス1世の宝飾品からフランスナポレオン帝政時代の絢爛豪華なジュエリー、サンペテルスブルグの秀逸なファベルジェのジュエリーなど。
800年に及ぶヨーロッパのジュエリー史を網羅するこのギャラリーは、特に19世紀ジュエリーまた20世紀の指輪が充実しています。

エドワーディアン(エドワード王朝時代のジュエリー) 1901年にヴィクトリア女王が死去し1902年、エドワード7世は60歳のときに即位します。
アルバート・エドワードは、ヴィクトリア女王とアルバート公の長男。
ヴィクトリア女王の御世が長かったことから、エドワード7世はイギリス王室で最も長く王太子(プリンス・オブ・ウェールズ)の地位にありました。
優れた外交センスで英仏協商、英露協商を成功させ「ピースメーカー」とも呼ばれました。

エドワード王の在位は1901-1910年までですが、「エドワーディアンのジュエリー」とは、1890年頃から1920年頃までにイギリスで作られたジュエリーを指します。
隣国フランスのベルエポック時代とほぼ重なります。

なぜこのように「エドワーディアン」と「ヴィクトリアン」が部分的に重なっている期間があるかと言うと、ヴィクトリア王朝時代の末期に既にエドワーディアンのジュエリーの特徴が見られ始めるからです。

例えばエドワードの妻アレキサンドラは皇太子妃時代から、ドッグカラーと呼ばれるチョーカー(dog collar choker)を流行させています。
ドッグカラーとは、首にピッタリの短めのサイズが特徴のネックレスで、アレキサンドラ妃はほぼ常に、ドッグカラーを単品あるいはロングネックレスと合わせて着用していました。

アレキサンドラ妃

エドワーディアンのジュエリーを一言で言えば、「18世紀ジュエリーへの回顧」です。
この時代、まだアールヌーボーやアーツアンドクラフツの影響が残っていましたが、アーツアンドクラフツのように「クラフトマンシップ」に重きをおくのではなく、エドワーディアンのジュエリーは、宝石のセッティングに重きを置きました。

特にダイヤモンドのセッティングです。
この時代ちょうど19世紀後半からの新大陸でのダイヤモンド鉱山の発見を受け、ダイヤモンドカッティングの技術も大幅に向上していました。

エドワード王朝時代に流行したのはフィリグリーのリング、シングルダイヤモンドの結婚指輪(ホワイトゴールドを使ったものも含む)、彫りの入った紋章のリングや誕生石の指輪等です。
色使いの点でも大きな変化が見られます。
エナメルやミクロモザイク等に代表されるヴィクトリア時代のカラフルな色使いから、単色のジュエリーが好まれました。

下記は当店で販売済みのイギリスエドワーディアンのダイヤモンドリング。
宝石はダイヤモンドだけ。
単色使いの端正さが際立つリングです。

エドワーディアンプラチナダイヤモンドリング(0.6-0.7カラット、プラチナ細工)

デザイン、装飾様式としてはエドワーディアンのジュエリーは言うまでもなく、18世紀のロココ様式に影響を受けています。
ジュエリーモチーフとして再び、リボンやタッセルが好まれ、隣国フランスと同様に「ガーランド」と呼ばれる独特の花綱様式が流行します。
その先駆者であったのがカルティエ社。
そしてファベルジェはこの時代にエナメルを施した、そして裏面を幾何学的なギロッシュで覆ったジュエリーで一躍有名になります。

花綱模様(ガーランド)様式のネックレスでこの時代によく作られたのが、トルマリン、真珠、ルビーなどを配したペンダントトップに短めのチェーンをつけたスタイルのものです。
下記は当店で販売済みのアメジストのペンダントネックレスです。
「ガーランドx色石x短めのチェーン」とエドワーディアンの典型的なペンダントネックレスです。

エドワーディアン アンティークペンダントネックレス(ガーネット 天然真珠)

ゴールドのカラットとしては、エドワーディアンの初期の頃1900年頃まではまだ9ctゴールドも見られますが(9ctゴールドの使用はイギリスで特に1880-1900年頃に見られます)、特に20世紀に入ってからは18ctゴールドで作られたジュエリーが多くなってきます。
15ctゴールドもまだ僅かながら見られる時代です。
「白い金属」としては、19世紀からホワイトゴールドの使用が見られますが、1900年以降はプラチナが部分的にではありますが好んで用いられるようになります。

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