--- アンティーク・エピソード ---リバティー(Liberty )とアーツアンドクラフツ

「リバティー」という名前はアンティークジュエリーにお詳しい人以外でもご存知の方が多いでしょう。
現在もロンドンにある老舗の百貨店の名前であり、「リバティープリント」と呼ばれる素地等で有名です。

リバティー商会の歴史は19世紀末まで遡ります。
隣国のフランスで「アールヌーボーの運動」が隆盛していた19世紀末から20世紀初めにかけて、イギリスでは「アーツ&クラフト」の動きがあらゆる装飾様式において見られます。
そして台頭してくるのが、リバティー商会(リバティ百貨店)です。

1875年、東洋に強い憧れをもったアーサー・ラセンビィ・リバティ-はリバティ-百貨店をオープン。
ウィリアム・モリスをはじめとする革新的で最高のデザイナーたちとの交流により、「アーツ・アンド・クラフツ運動」や「アール・ヌーヴォー」といった19世紀末のデザインムーブメントにおける中心的存在となりました。

「リバティ-はすべてアーツアンドクラフツなのか?」
リバティーと言いますと「アーツ&クラフツ( Arts & Crafts)」のイメージが強いと思いますが、そうである部分とそうでない部分があります。
確かにリバティー(Liberty )はアーツアンドクラフツ運動の中で最も成功した会社です。

1)カボションカットされた宝石
2)エナメル技法
3)金属の表面をハンマーで叩いているところ
4)銀の多用など
アーツアンドクラフツの代表的な特徴を備えています。

一方でリバティーの商業的な成功は、その審美的な美しさを維持しつつも、アーツアンドクラフツの頑なまでのハンドメイドに対する拘りから開放されたがために可能になりました。
アーツアンドクラフツ職人が理想を追い求めた芸術様式であるのに対して、リバティー社は機械も取り入れながら、高い基準のジュエリーを量産することに成功します。

イギリスでもっとも商業的に成功をしたアーツアンドクラフツ運動は、アーツアンドクラフツの根本思想の真逆にある「マシンメイド」を取り入れたためであるというのは、なんとも皮肉な話です。

リバティー社と作家たち
リバティーの成功は、そのデザインを優れたジュエラーたちが手掛けたためです。
同時期のアーツ&クラフツのジュエリーに比べても、リバティー社のデザインの秀逸さは際立っています。

リバティーのジュエリーデザインを手掛けたジュエラーにアーチボールド・ノックス(Archibald Knox)がいます。
アーチボールド・ノックスが生み出した「キムリック( Cymric)」と呼ばれる、ケルトの組み紐飾りをリバイバルしたデザインはリバティージュエリーを代表するデザインになります。
下記はアーチボールド・ノックスが1899年にリバティー社のためにデザインした銀製のバックルです。

リバティ社
(c) Christie's

その他、バーミンガム出身のWilliam Hair Haseler(WH Haseler)。
ハスラーは元々「W H Haseler & Co」と言う会社を別に持っており、後にリバティーに合併されます。
リヴァー・ベイカー、ジェシー・キング(Jessie King)、 アーサー・ガスキン(Arthur Gaskin)と妻のジョルジナらが活躍しました。

リバティー社の成功は、「マシンメイドを取り入れたハイレベルな製作」と「優れたデザイナーによる時代を捉えた良質なデザイン」にありました。

下記はジェシー・キングが1905年にリバティー社のためにデザインした銀製のエナメルペンダントネックレスです。
銀製の小さなお花とブルーグリーンのエナメルが特徴的です。
ジェシーは「グラスコースタイル(Glasgow Style)」と呼ばれるデザインを生み出しました。

ジェシーキング
(c) National Museums Scotland

下記はアーサー・ガスキンがリバティのためにデザインした、マザーオブパールを用いたネックレスです。

アーサー・ガスキン

ちなみに当店で入手しましたリバティーのムーンストーンのネックレスは最初、独特の葉模様やオープンワークの開き具合、カボションカットされたムーンうトーン等ガスキンの作風に類似しているとご指摘いただいたのですが、かなり詳しい人に見てもらいましたがはっきりしないそうです。

リバティー社(Liberty)ムーンストーンネックレス

アーサー・ガスキン

ちなみにムーンストーンはリバティのジュエリーで最も好まれた宝石の一つです。

リバティー

作家のサイン
アールヌーボーが作家性を大事にしてサインドピースがもてはやされていたのに対し、リバティはその商品がリバティの商品として認知されることを好み、作家のサインは必要に迫られる限りは入れさせませんでした。
下記はアーチボルト・ノックスがデザインした、リバティ社のエナメルの櫛ですが、やはり作家のサインは入っていません。

リバティ社

リバティー社がもっとも大きな成功を収めたのは1900年から1912年にかけてです。

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