現在に残る、数少ないプリカジュールエナメル
1890年頃のフランス製。
フランスアールヌーボー期のプリカジュールエナメルで作られたペンダントネックレス。
金属の下地を持たないプリカジュールは、エナメル技法の中でも最も困難な技法。
優れた技術をもったアールヌーヴォー期の時でさえ、ルネラリックをはじめとする一握りのジュエラーしか作れませんでした。
その構造的脆さからも良い状態で残ったものは極めて珍しく、稀に市場にでてきたときは、法外な値段が付けられてしまうことが多いので、このような価格ででることは今後、まずないでしょう。
光にかざすと透けて見える、ステンドグラスのような効果
モチーフはエジプト神話の霊鳥である不死鳥(フェニックス)。
光にかざして見ると、中世の教会でステンドグラスの青い清らかな光を見ているような気持ちになってきます。
羽以外の部分は、チェーンも含めてすべてシルバー。
アールヌーヴォー期らしく銀の細工も緻密で写実的です。
目鼻立ちから、足の爪まで、リアルに表現されており、ゆるぎない生命力に溢れています。
ぺンダントトップの大きさは1.8センチx3.9センチ、チェーンの長さが50センチ。
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アンティークジュエリーで時々登場するエナメル。
その柔らかな質感は、どんな高価な宝石を使用したジュエリーにもかえがたい魅力があります。
繊細で高い技術を要するエナメルジュエリーは、現代のジュエリーでは見られなくなってしまっているので、良質なエナメル使いはアンティークジュエリーの醍醐味の一つです。
いくらお金を出そうと、現代のもので同レベルの美しさを持ったエナメルジュエリーを手に入れることはできないのです。
アンティークのエナメルジュエリーももともと数が少なく、今後ますます手に入らなくなること必至です。
エナメルはその技法もバラエティに富んでいますが、基本的には粉末のガラス質のエナメルで、金属やガラスなどに焼き付けたり、そこに絵を描いたりしたジュエリーを指します。
数あるエナメル技法の中で、今回は「プリカジュールエナメル」について書きます。
あらゆるエナメルの中でもっとも美しいとされている珠玉のエナメル技法。
フランス語で「Plique-a-jour Enamel」。
プリカジュールエナメルとは、金属の下地がなく、金属枠のみによってエナメルを支える特別なエナメル技法です。
とても手間がかかる技法ですし、特に複数の色合いを用いたり、美しいグラデーションを出すのは至難の技です。
下記は当店で販売済みのプリカジュールエナメルのペンダントトップです。
なんと7色のエナメルが用いられています。
これは想像を絶する難しさです。
と言いますのも、エナメルは色によって温度を変えて熱を加えていきます。
7回も炉に出し入れをして加熱するわけですから、1-2色のエナメルよりずっと難しくなるのです。
裏から光りを当てるとステンドグラスのように光が透けます。
イギリスではプリカジュールエナメルのことを、「チャーチウインドウ(church window)」と呼ぶことがあります。
そもそもプリカジュールエナメルは、教会のステンドグラスの壮麗な美しさをジュエリーで表現しようと思って出来たエナメルです。
しかしその構造は異なります。
ステンドグラスに使われているガラスは細かくカットすることも薄くすることもできませんから、ジュエリーのような小さな物は作れないのです。
プリカジュールエナメルは、アーティスティックな構図を好んだアールヌーボーのジュエリーに特に好んで用いられました。
かのルネラリックはこのプリカジュールエナメルの旗手として有名になりました。
下記は1903年にルネラリックが製作したパンジーのブローチです。
プリカジュールエナメルにサファイヤ、ゴールドで出来ています、アメリカのウォルターズ美術館所蔵。
1900年前後にかけて多くの作家、あるいは宝飾メゾンが好んでプリカジュールを用いたハイジュエリーを手がけます。
下記は推定1900年頃、ジョルジュ・フーケのオパールとエナメルのペンダント。
数年前にササビーズ ロンドンに出展され高値で取引されています。
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